18話 最終階層 永久聖竜の憩いの場2

 セナは、ガイウスとの戦闘の中あることを考えていた。


 超越者とは何をもって超越者たるのかと。

 

 傷を瞬時に再生する力?

 底つきぬ魔力?

 スキルを封じる力?


 否だ。膨大な時を生き、膨大な経験と膨大な知識が集約することで己自身を超越者たらしめる。それらの力は付属品でしかならない。


 たった十数年生きた獣が数千、数万、いやそれ以上に生きたであろう聖竜に挑むなど笑い話でしかならないのだ。


「どうした?まさか、その程度でくたばる程柔ではないだろう?」


 彼にとってはバースデーケーキの蝋燭を吹き消す程度の吐息だったのだろうが俺にとっては災害。喰らっていたならば死んでいた。


 紙一重で避け切ることに成功したがナビゲーターさんが居なかったら死んでいたという事実が自身に恐怖を与えてくる。


 「《光線レイ》!」


 セナから射出された光線がガイウスの体を貫くが瞬時に再生される。その再生速度はまるで、光線が体をすり抜けたと錯覚するレベルだ。


 スキルが使えないのもかなりまずいな。


 ナビゲーターさん曰く超越者は皆【奇跡】なる力をその身に宿しているらしい。ただ存在するだけで他に影響を及ぼす力それが【奇跡】と言われている。


 ガイウスの奇跡は【戒めの楔】。その能力は深淵スキルを除く全スキル及びギフトの無効化。ただし、一度発動したスキルは無効化できないらしい。俺の場合は階層を下る前に【千変万化】のスキルを発動していたため獣人の姿になれている。


 このチート野郎!ズルだよズル。こうなったら、コイツをモフ堕ちさせて我が従僕に……


 そんなくだらないことを考えているとガイウスは爪を振り上げる。


「考え事か?余裕だな?」


 俺はすかさず《光子化フォトン》にて緊急回避しガイウスの背後に回り込む。そして、光魔法|検査《スキャン》にて魔石の位置を把握する。


 魔石さえ砕けば……


「読めている!」


 しかし、尻尾による追撃でセナは吹き飛ばされる。


「戦闘において幾億の可能性を予測し、対応する。我々超越者にとっては人が瞬きするかの如く当たり前の様にそれができる。お前に足らぬものは経験と知識だ。言わば若すぎると言ったところか」


 まさしく、ラプラスの悪魔。ガイウスの場合は膨大な経験と知識により、既に知っている攻撃パターンの予測及び対応をしているだけ。ある意味、文系的ラプラスの悪魔と言える。


「ゲホッ!」


 《光子化フォトン》の弱点は攻撃をする際一時的に実体化しなければならないところだな。


「さて、じゃれ合いはここまでにするか」


 その瞬間、ガイウスからとてつもない魔力が放出され自身の爪を振り上げる。


「《空間断爪スペースクロー》!」


 爪を振り下ろした瞬間、ブォンッという効果音と共に古代遺跡中央に突如巨大な爪痕が出現した。


 空間を抉ったのか?


 俺は《光子化フォトン》にて回避に成功していた。今は古びた教会に身を隠しているが……


「分かっているぞ!」


 その掛け声と共に再び《空間断爪スペースクロー》にて教会を抉り取る。


 くそっ!時空間魔法強すぎる。当たったら即死じゃん。


「ほう、またしても避けるか」


 ガイウスから称賛の声を貰うが同時に次は当てるという強い気迫が伝わってきた。


 まずいな。さっきので最後の《光子化フォトン》だったんだが……精神的、身体的負担がかなり大きい。だが、魔力に関しては問題ない。虹石による魔力変換をすれば魔力を補填できる。


 ガイウスに強力無比で最速な一撃を叩き込むしかない。


 魔石の位置は既に把握している。

 

 セナは最後の力を振り絞り全魔力を指先に集中させる。


「ふむ。オレの魔石を狙っているな?光速移動による接近戦の次は遠距離からの狙い撃ちか。面白い受けてたとう」


 ガイウスはあえて胸部を曝け出し自身という的を大きくした。


「オレの魔法とお前の魔法どちらが早いか勝負と行こう!」


 セナは極限にまで高めた集中力で鼻血を垂らす。ガイウスが最早何を言っているのか聞き取れていない。今はただ、ガイウスの魔石を砕くことのみに集中し、世界がスローモーションになる。


 その世界には無駄な情報は一切受け付けない。色も、背景も、音も、その世界にはガイウスとその体内にある魔石のみがあれば良い。


 魔力が膨れ上がり最高地点に達した時お互いの魔法が発動する。


 「《死光線デスレイ》!」


 「《時間停止タイムストップ》!」


 その時、世界に静寂が訪れた。

 

◇◇◇◇◇


「惜しかったな!」


 ガイウスの目の前には紫色に光り輝く光線が静止していた。その光線はガイウスの体内を焼いていたが貫くには至らず魔石一歩手前で静止してしまっている。


「再生が追いつかないほどの熱量を持った光線。賞賛に値する。並の相手なら消し炭になっていただろう」


 ガイウスは光線から抜け出し瞬時に傷の再生を行った。


「しかし、お前はオレを屠れなかった。それが真実。どうやら、お前は奴が言っていた人物ではなかったらしい」


 ガイウスはセナに近づき爪を振り上げる。


「その若さで深淵スキルを使わずよくやった方だ」


 そして《空間断爪スペースクロー》をセナに放った。


「さらばだ!挑戦者よ」

 

 しかし……


 ガキィーン!


 その爪がセナに当たることは無かった。


 ガイウスの爪はセナに触れる直前で薄い紫色の膜に弾かれたのだ。


「これは、一体何だ?」


 ガイウスは再び《空間断爪スペースクロー》を放つが謎の紫色の薄い膜に弾かれる。


 どうなっている?とガイウスは困惑する中突如セナからとてつもないエネルギーの本流を感じとった。


 む?これはまさか…….


 次の瞬間、セナから膨大な白銀のオーラが放出された。

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