17話 最終階層 永久聖竜の憩いの場1
そこは、トンネルだった。足元には光苔が無造作に生えており、前方を見れば出口らしき光が見える。
薄暗いトンネルに二人の足音だけが聞こえる。
トンネルを抜けると不思議な遺跡が広がっていた。草に覆われた壊れかけの家々。石畳の敷かれた道路はどれもボロボロで、割れ目からは雑草が生えている。一言で表すのなら自然に侵食された古代都市だ。
「ここが、最終階層か。すごく、安らぐな」
自然と文明という混沌の中に調和が存在している。故に、このような幻想的で心安らぐ世界観を形成できているのだな。
「憩いの場かぁ、なんかわかる気がするよ……ってセナ君?!なんで寝ようとしてるの?」
ハッ!体が勝手に昼寝をしようとしただと?
あまりの心地よさに猫の本能が刺激されてしまった。恐るべし永久聖竜。このようなフロアを創造するだなんて。
「このフロアは危険すぎる。一刻も早く永久聖竜を見つけなきゃ」
師匠はジト目でこちらを見るが気にしない。
『敵意を感知しました。個体数は一。北方約10キロメートル先に居ます』
敵か。十中八九、永久聖竜だろう。
「北方約10キロメートル先に敵がいる。恐らく、永久聖竜だと思う」
師匠は頷き、俺の後に続く。
二人は道なりを進んでいくと住宅街であろう場所から大きな広場へと抜け出た。
広場の中央には大きな石造りの祭壇があった。そして、そこにはヤツが……竜が鎮座していた。白銀の鱗に覆われ角度によって色が変わる。金色に染まった角を生やし自身の背丈を超えるほどの翼を付け全てを抉り取れる様な強靭な爪を生やしている。体長は50メートルぐらいはありそうだ。
こいつが聖竜じゃなかったら鼻からパスタでも食ってやるわ。……師匠が。
「すごい。アレが聖竜。古書に書かれてあった特徴に合致するよ」
突っ込む余裕がないほどに師匠は目の前の竜に見惚れていた。そして、アレが聖獣であることが確定する。
「そこに居るのは挑戦者だな?」
あ、目が合った。先程まで目を瞑っていたからわからなかったが俺と同じアメジスト色なんだな。
「その通りだ。ちなみに、貴方がここのフロアボスで合ってます?」
「いかにも。オレがこのダンジョン最終階層のフロアボス、永久聖竜のガイウスだ」
重厚感のある声だ。それに、聖獣ってみんな発光してるのかな?さっきから眩しくて仕方ない。
「獣よ。お前からは奴の気配がする。アドミニストレータに会ったな?」
アドミニストレータ?俺を転生させてくれたあの老人のことか。
「あぁ、会ったよ」
すると、ガイウスは獰猛な笑みを浮かべこう言った。
「なるほど。ではお前がそうなのか?」
そう?何を言っているんだコイツ。
「ふふ、気にするな。お前は私を倒しに来た。それだけで良い。お前は私を倒すことだけ集中すれば良い」
ガイウスは立ち上がるとこちらへ鋭い殺気を放つ。
「おや?やる気みたいだね?じゃあこちらから仕掛けようか?」
師匠は闘力を漲らせユニークスキル【魔剣召喚(火)】にて火の魔剣を召喚する。
「とうとうセナ君に師匠としてカッコ良いところを見せられる日が来た。師匠は偉大であり至高の存在であることをその眼にしっかりと焼き付けると良いさ」
ナタリアはガイウスの首元に剣を突き立てようとするが……
「お前は挑戦者ではない」
その瞬間、ナタリアの背後に転移陣が出現し青白い光に包まれる。
「え?ちょ?!嘘でしょ?転移陣?」
「お前は強制退場だ。寄生虫に用はない」
「んにゃー!そんな!久しぶりに師匠ムーブをかまそうと思ったのにー!」
ナタリアの悲痛の叫びは青白い光と共に消失した。
師匠……寄生虫って言われてるよ。
「今のはフロアボスとしての権限かな?」
「その通りだ。他のダンジョンのルールは知らんが、このダンジョンを攻略するにあたって最も大事な要素は貢献度にある。ソロであれば別段機にする様な物ではないのだが複数で挑む場合貢献度によってフロアボスは挑戦者を選別することができる。今回、あの女の貢献度があまりにも低かったためこのダンジョンから追い出させて貰った」
……留守番が良くなかったのかな?
「お前があの女のテイムモンスターなら話が変わっていたがな」
なるほど。それなら、俺を育て上げたという実績が貢献度に加算されるのか。あくまでテイマーとして、自身の力でダンジョン攻略をしてきたことになるから。
「だが、お前らの関係はそうではないのだろう。例えば子と母、彼女と彼氏、夫婦、そんな感じか?」
「えーとつまり、このダンジョンのシステムは母が自身の子共に戦わせて寄生してた親って判断されたのか?」
師匠どんまい。アレ?でも今思い返すと心当たりがあるな。3歳児に家事洗濯って……寄生虫か。
「まぁ、それでも師匠からは色々なことを教わった。俺にとって偉大であることには変わりないよ。少しドジで残念なところはあるがな」
絶滅危惧種のボクっ娘でもあるしね。
「そうか。まぁ実際追い出す必要は無かったのだがな。お前とはサシでやりたかった」
「俺も、久しぶりの師匠との共闘にすごく心踊ってたけど、やっぱり師匠を危ない目に合わせず良かったと思う。貴方は死ぬ程強そうだしね」
「強そうではない……強いのだ!」
二人の漏れ出る金色のオーラが周囲の空間を歪ませる。
そして、挑戦者セナの最後の戦いが幕を上げたのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます