14話 第九階層 正義の礼拝堂2
張り詰めた空気の中、はじめに動いたのはセナの方だった。
【大獣の威厳】、【疾風迅雷】、【思考加速】を発動する。
そして、闘力を最大限にまで練り上げ一気に加速しミカエルとの距離を詰めた。
「接近戦か、ワタシも得意なんだ」
セナは横凪の一閃を放つがミカエルは余裕でそれを回避する。そして、片手に持つ自身の身長を超えるほどの戦斧で反撃されセナは弾き飛ばされた。
「グゴッ!」
殴られる寸前、後ろに跳躍し威力を軽減させたためダメージは少なかった。
……接近戦は少しきついか?
彼女の体からはリッチモンドと同じく金色のオーラが漏れ出ている。闘力に関してはカンストしているようだ。それに、鑑定が弾かれる。ナビゲーターさんがいうには魔力を体に纏うことで鑑定を阻害できるらしい。恐らくミカエルはそれをしているのだろう。
「《
ならば、魔法による遠距離攻撃に徹しよう。
「甘いな!」
しかし、戦斧により防がれてしまった。
魔法属性の中で最も早く威力が高いのが光だ。それを意図も容易く防いでくるとは天界最強とは名ばかりではないらしい。
「こちらからも行かしてもらう」
その言葉と同時にミカエルは空へと羽ばたいた。
「《
その瞬間、ミカエルの周囲に氷でできた無数の槍が出現する。その矛先はセナをとらえ、一斉に射出された。
かすり傷を負うが、紙一重でセナは全ての氷槍を避けることに成功する。
「なかなかすばしっこいな。面倒だ!」
突如、ミカエルから膨大な魔力が放出された。
「《
膨大な青白い魔力が大地を凍らせていき、先程までの春うららかな美しい世界が氷に閉ざされてしまった。
しかし、ミカエルが魔法を発動した瞬間セナはギフトを使い、【遊泳】+【砂かけ】+【風化】=【地中遊泳】を取得し土の中へ避難し難を逃れた。
しかし、セナはただ避難しただけではなくミカエルの真下に移動し、スキル【火炎放射】を放ち攻撃を仕掛けたのだ。
「なんだと?!」
不意の攻撃に回避が遅れたミカエルは方翼を燃やされる。
「やっと入ったな」
ただ、徐々に再生しているところを見るとミカエルは【再生】のスキルを保持していると見れる。あまり効いていなさそうだ。
「多彩な奴だ。氷槍の傷も既に再生している。なかなかに骨のある奴だな貴様は」
「まだまだ、始まったばかりだよ」
そう、今までのは単なるご挨拶程度。本番はこれからだ。
「ほう、まだ力を隠していると?」
「まぁね。誰にでも奥の手ってやつはあるだろ?」
未だ成功したことがない魔法だが先程のスキル【地中遊泳】でなんとなくだがコツは掴めたかもしれない。
「さぁ、始めよう。本気の闘争を!」
人間やめて獣になったせいか狩猟本能が掻き立てられる。闘いが楽しいと感じてしまう。
「よかろう。大天使の真なる力をお見せしようじゃないか!」
俺たちはお互いゆっくりと歩き距離を詰める。
そして、間合いに入った瞬間双方とも斬り合いに傾れ込んだ。
戦斧の一撃は甚大であり隙が大きい。しかし、金色の闘力なだけあって重さを感じさせない振りを見せる。俺はミカエルの攻撃を往なし続け時折見せるちょっとした隙に攻撃を繰り出す。
「拉致があかんな」
お互い、擦り傷だらけだがすぐ再生してしまうため決定打が見つからない。それを思ってか、ミカエルは一度セナから距離を置き飛行する。
「《
一度目の《
【氷天極鎧】の能力は防御時に自動で相手の攻撃を防いでくれる氷の盾を召喚し特殊効果として氷属性の攻撃を一度無効化することができる仕様。そのためいざとなったら使おうと思っていた奥の手の一つだ。
「また、珍妙なスキルを使いおって」
ミカエルはそういうと背中から一対の翼に加えてもう一対の翼を生やした。それと同時にミカエルの魔力が急増したのがわかる。
「もう、貴様は我の速さにはついてこれぬ」
次の瞬間ミカエルが視界から消えた。
あ、これまずいのでは?
『主人様しゃがんでください』
俺はナビゲーターさんの助言に従ってしゃがむ。それと同時に何かが上空を通過した。
「ム?避けたか」
声のした方を振り向くとそこにはミカエルが立っていた。
今のはなんだ?
『恐らく、スキル【音速飛行】かと思われます』
なるほど。音速で俺の視界から外れたのか。
『先程の速度を計算したところマッハ20はございました』
ふむ。これは俺も覚悟を決めないとな。
『あの魔法を行使するのですか?』
あぁ。やらなければ負ける。それに、今ならできそうだしな。
◇◇◇◇◇
かつて科学者の間では光は波であると考えられていた。もちろん、光は波であることは真実である。しかし誰も光電効果については説明できなかった。そこで、アインシュタインは独創的な発想で光は粒子であることを結論付ける。
光量子仮設。アインシュタインが考えた仮設だ。光が波として振る舞うときに干渉や回折が起こり、光が粒子としての性質が現れるとき光電効果が起こる。故に光が粒子であれば光電効果について説明できるのだ。故に、光は波でもあり粒子であることは世間では常識になっている。
そんな中、ファンタジーな異世界に転生した瑠璃川誠七は自身の魔法適性が光であることを知った時真っ先に光子化について検証した。自身の体を光子とする魔法。しかし、そんな簡単に成功することはなかった。幾度検証すれども毎回失敗に終わる。魔法にはイメージになんらかの欠如があれば発動することはない。俺がイメージする光子化には何かが足らないようだ。
そこで、今回【地中遊泳】にて大地と同化した時に気づいたことがある。それは[情報]だ。地中に潜る時一度自身の生体情報を凍結し地上に戻ると同時に解凍する。
光子化に足らなかったイメージは正しくそれなのだ。この世界の生命体は心臓を潰されても魔法で治るらしい。だが、魔石は一度破壊されたら戻らない。言わばこの世界でいう心臓とは魔石を意味するのだ。
これに気づかなかったのはある意味異世界人であるが故の弊害だろう。魔石には自身の生体情報が記録されている。破壊されれば自身を形成する情報が全て消えるということだ。つまりは、存在の消滅を意味する。
故に、光子化には自身の魔石及び生体情報を保護せねばならない。地中遊泳であれば生体情報の凍結と解凍。であれば、魔石ごと光子化するということは、生体情報の凍結と解凍及び復元にあると考えられる。
光子化において必要なプロセスはこうだ。
生体情報の凍結→光子化→魔石の復元→生体情報の解凍。
これが、俺に足らなかったイメージ。
『主人様、来ます!』
「余所見とは良い度胸だ!」
ミカエルはマッハ20の速度でセナに接近し戦斧にてセナを真っ二つに切り裂いた。
しかし、セナの体が細かい粒状の発光体となり霧散する。
「何?!」
ミカエルは驚きの声を上げるが突如右胸に激痛が走る。
「ゴフッ!いつの間に!」
ミカエルの右胸にはセナの持つ長剣が突き刺さっていた。
「お前はもう、俺のスピードにはついてこれないよ」
ミカエルの背後でそう呟くと脳内でピコンッ!という効果音が鳴り響く。
〈スキル、【至高魔導】【達人武闘】を取得致しました〉
セナは魔導の深淵へ触れることに成功し、新たなスキルを会得した。
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