12話 第八階層 真祖の赤黒槍3

 「いやぁ、危うく死ぬとこだったわ」


 目の前にはケラケラと笑うイケオジことリッチモンドが立っていた。


「え?なんで無傷なの?」


 確実に再起不能にしたと思ったんだけど。


 俺の疑問にロザリオへ指を当てながら彼は、説明してくれた。


「この御伽級の魔道具、{聖人アレクサンドルのロザリオ}には即死級の攻撃を1日に一度だけ回避することができる効果がある。ちなみに、これはウェンチェスター家の家宝でもあり、孫娘にも同じ魔道具を装備させている」


 御伽級か。

 

 確か魔道具や遺宝には階級があって一般級、希少級、特異級、伝説級、御伽級、世界級、神話級の順で階級が上がり御伽級は上から3番目の階級だったな。


「まだ、やりますか?」


「はぁ、今回は私の負けだ。転移陣は好きに使ってくれ」


 ドサッと地面に腰を下ろし溜息を吐くと負けを認めた。


 良かった。

 500年間、召使いルートは無事回避したらしい。

 だが、俺もかなり疲れた。


「まずは、ログハウスに戻りません?」


 流石に、休息は必要だよな。

 


 ◇



 俺は師匠に無事勝利したことを告げ、リッチモンドのログハウスにて絶賛モフられ中である。


「まさか、獣人族ですらないとは」


 ちなみに俺は元の姿に戻っている。

 こっちの方が何故か回復が早いからだ。


「ふにゃん」

 

 その代わり喋れなくなるのが難点だ。

 いつか、念話的なものを習得したいと思っている。


「新種か?そういえば、額に虹石がハマっているな?幻獣の類か?」


 その疑問に師匠はモフりながら答える。


「僕も詳しくは分からないけど虹石を付けた生命体は今のところ発見されていない。恐らく新種だと思うよ?」


「ふむ、始祖か。となればこの子は神によって作られた生命体ということになるな?」


 正解!そう俺はあの老人……って脇はやめい!脇だけは弱いんだ!


 突然、脇を集中的にモフりはじめた。


「ふにゃっにゃっにゃっにゃっ!」


「うお?!突然笑い出したぞ?」


「さっきは新種と言ったけどあくまで僕の予想だから鵜呑みにはしないでね?ひょっとしたら騎猫獣の突然変異体ってことも無きにしも非ずだから。」


 師匠が少し焦り気味に答える。


「そうか。もし始祖であれば我が孫娘の婿にでもと思ったんだが……」


 なるほど。これを見越して脇を……このイケオジは相手の表情で考えを読む天才だからな。

 

 よし、このまま笑い続けるぞ!


「吸血鬼族は始祖って言葉に相変わらず弱いよね」


「当然だ。始祖様があって今の私たちがいるのだ。これは単に吸血鬼族だけが尊ぶ思想ではないぞ。もちろん、他の種族にだって始まりの祖先がいる。彼らがいなければ我々は生まれなかった。祖先へのリスペクトが最も強いのが吸血鬼よ」


「祖先は、大事だよね。所で転移陣は使っても良いんだよね?」


 うまく、話を逸らしたな。


「あぁ、私は負けた。故に約束通り転移陣の使用を許可する。だが、正式にバトラーとして雇うと言ったら……」


 結構です!

 俺は肉球をイケオジフェイスに押し付ける。

 しれっと召使いからバトラーに昇格してんの何?


「これは断られたのか。仕方がない、お前は冒険者になるんだったな?」


 コクコクと俺は首を縦に振る。


「であれば、いずれ魔帝国にも寄ることがあるだろう。その時にこの手紙を息子へ届けて欲しい」


 彼から手渡されたのは赤い薔薇のシーリングスタンプがついている手紙だ。


「その薔薇は、我が家の紋章だ。魔帝国へ入国する際、それを門兵に見せれば何かと融通はしてくれるだろう」


 任せるが良い!いつか、魔帝国に寄ったら届けておこう。


 俺は、手紙を咥え師匠が持っているマジックバッグの中へ押し込んだ。


 いずれ自分専用のマジックバッグを買おうと思っている。


「さて、お前らはいつ次の階層に行こうかと考えている?」


 そういえば、フロアボスを倒した本人がそのフロアから出なければリポップされないんだったな。あわよくばここのフロアボスとも戦いたかったけど彼はこのフロアからでなさそうだし、本気で次の階層に進むとするか。


「3日後で」


 そして、俺たちは三日三晩ガーリックパーティーを楽しんだがニンニク臭が取れないため追加で三日滞在することにした。


 ……

 …………

 ………………


 ふぅ、やっとニンニク臭が取れたな。


 俺は黒のレザーアーマーを身に纏い師匠と共に転移陣前にいる。


 そこには見送り人としてリッチモンドも同席だ。

 


「次の階層にいる奴はかなり手強い相手だ」


 「手強い相手?」


 アンタらも大概手強かったけど?

 アリウス然りな。


「アリウスは英霊となり弱体化し、私は隠居の身。我々は最早全盛期とは程遠いただの老耄どもよ。勝てて当然と言われれば当然と言えるだろう。しかし、次の階層にいる奴は天界で最も有名な最上級天使。最近ダンジョンの管理者と契約を結び九階層のフロアボスを任されていると聞く。ロギがここのダンジョン攻略に失敗した後に契約を交わしたらしいから以前よりかなり攻略難易度が上がっているだろう」


「最上級天使か、なんかヤバそう」


 やばい、なんかトイレに行きたくなってきた。

 天使ってあれだろ?神様の使い的な神聖な生き物的な奴だろ?なんでダンジョンにいるんだ?


「私がここに居を移している時たまたま出くわした天使でね。その時の彼女はひどく焦燥していた。何かに悩んでいたよ。後になって彼女が掲げる正義について迷っていることを知ったんだ。故に彼女は挑戦者に正義とは何かを聞いてくる。まるで答えを求めるこどものように」


なるほど、それでダンジョンに引きこもっていると。

 

 ……正義か。そんなことを言われるとなんか考えちゃうな。


「一応自分なりの答えを考えておくことだ。ひょっとすると答えによっては戦わずに済むかもしれないな」


 「それは、六日前に教えといて欲しかったんだけど?」


「すまん、忘れていた」


 おかしいな。このイケオジがあの老人に見えてきたぞ?


「だが、お前なら大丈夫だろう?」


 まぁ、一応。


「さて、手紙の件は任せたぞ?」


「了解」


 俺たちは転移陣に入り次の階層へと降りたった。


 

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