11話 第八階層 真祖の赤黒槍2

 「来たか!」


 声を上げたのは、イケオジことリッチモンドだった。両手には赤と黒の長槍を持ち服装は黒のシャツに黒のスキニーというラフな格好だ。


「早いですね」

 

 5分前行動ならぬ30分前行動だな。

 俺もいえたことじゃないけど。


「楽しみでな。久方ぶりに骨のある奴と戦える。貴族時代が長く体が鈍っているんだ」


 俺はサビ落としかっての!


「フロアボス倒してんのに?」


「相性がよかったんだ。あれは戦いとは呼べんよ」


 深淵スキルの相性が良かったんだろうか?


 俺は戦闘の前にリッチモンドを鑑定した。情報はないよりもあった方が良い。


名前: 【リッチモンド・ウェンチェスター】

種族: 【吸血鬼】

称号: 【影の支配者】【先代ウェンチェスター伯爵】【終焉獣を屠しもの】【隠居者】【真祖】【覚醒者】

魔力階梯:【第六階梯】

闘力色:【金】

深淵スキル:【常闇の大影海】

ユニークスキル:【影操作】【超再生】

スキル: 【ニ槍術】【魔力感知】【気配感知】【魂輝感知】【血流操作】【絶爪】【飛行】【霧化】【魅了】【眷属召喚】【簡易鑑定】【幻惑】【達人武闘】

ギフト:【眷属化】

魔法適正:【闇】


 うん、強そう。ゲームみたいにレベルがないから漠然とした感想しか出てこないけど。


「どうだ?俺のステータスは?」


 やはり気がついているらしい。


「まぁまぁですね」


 いや、覚醒者だしステータスもすごいよでも、それを言うと負けを認めた感があるから言わない。


「はっはっは!お前は少しポーカーフェイスを覚えると良い。それに毛が逆立っているぞ?」


 くそ!未だ制御ができず何かにびっくりすると必ず尻尾とケモ耳がふっくらとしてしまう。


 師匠がそのフォルムの俺を見掛けると必ず3時間はモフられる。


 ちなみに今回も師匠は、異空間の中でお留守番中だ。


「さて、私は既に準備は整ったがお前さんはどうだ?」


「俺も大丈夫です」


 10キロ走ってきたからな。既に体は温まっている。


「では、始めようとするか」


 その瞬間、戦いの火蓋が切られた。


 まず、俺は闘力を最大限まで練り上げリッチモンドに切り掛かった。


 しかし、すました余裕顔を浮かべながら俺の剣閃を黒槍で往なされる。


「白と言ったところか、その若さでここまでの闘力を練り上げるとは」


 彼は称賛の言葉を述べるが余裕顔は変わらない。次々と俺の剣閃を往なしていく。


「今度はこちらの番だ」


 すると赤槍の鋭い突きが俺の頬を掠める。

 

黒槍で往なし赤槍で意識外の突きを次々と放って来る。


 だが、だんだんと慣れてきた。


 俺は黒槍の矛先を絡め弾き飛ばし赤槍の突きを剣の腹で滑るように往なした後剣突を放った。


 「ぐっ?!」


 すると彼の喉には俺の剣がブッ刺さり苦悶の唸り声を上げる。そんな彼の顔からは既に余裕顔が消えていた。


「ゴフッ!見事だ。力は圧倒的に私が勝っていたが猫獣人特有のしなやかさと身軽な動きには賞賛に値する」


 ちなみに彼は俺のことを猫獣人だと思っているらしい。

 

 厳密には虹石幻獣人な訳だけど。

 

 額の宝石と耳が少し長いのと尻尾が二つあると言う違いがあるだけで見た目は完全にただの猫獣人。俺はこれからずっと猫獣人として間違われ続けるのだろうか?いや、間違ってはいないのだろうけどね?俺のアイデンティティが完全に無視されてる感じがするんだよね?


 戦闘中にそんなくだらないことを考えていると先程彼に負わせた傷が塞がってしまった。


「しかし、この程度では私を再起不能にすることはできないな」


 ユニークスキル【超再生】か、厄介だな。

 やっぱり、吸血鬼だから燃やすか首を切り落とすしかないのかな?


 だが、ニンニク食ってたしなー。当てにならないな。


 いや、確か吸血鬼は日光に弱いと言っていたな。

 いや、もしかすると彼ぐらいになれば日光に耐性ぐらいはあるんじゃないか?だがそれでも種族的な弱点は耐性を持っていたとしても多少は効くのではなかろうか。

 

 こうなったら…………助けてナビゲーターさん!500年間タダ働きはイヤだー!


『傷口を燃やして再生を遅らせるか、再生が追いつかないほどの高火力な攻撃を与えなければなりませんね』


 やっぱり魔法主体に切り替えるか。斬っても再生されるのであれば無駄な体力は使わないでおこう。


 俺は一旦彼との距離を取った。


 しかし、瞬く間に距離を詰められ赤槍の横なぎを喰らう。

 

 俺は瞬時に剣を体と槍の間に滑らし防御を試みるが、防御越しに甚大な衝撃を貰った。


「グハ!!」


 先程の撃ち合いとは比較にならないほどの力を感じ俺は吹き飛ばされながらも【思考加速】でリッチモンドを観察した。


 なんだ?体から漏れ出ている金色の光は?


 俺の疑問にナビゲーターさんが答えてくれる。


『あれは、闘力によるものです』


 闘力だと?て事は生命エネルギーに何か関係があるのかな?


『はい。闘力色の白までは、生命エネルギーが体外へ出る事はありません。ですが、金色に関しては膨大な遠心力がかかるため生命エネルギーが外へと漏れ出てしまうのです』


 なるほどさっきまでは漏れてなかったから手加減されていたってことか。


『加えて、【血流操作】による身体強化もかかっております』


 【血流操作】と【超再生】に金色の闘力か、凶悪だな。


 俺は地面に着地し、【大獣の威厳】、【疾風迅雷】を発動させ彼の追撃を避け続ける。


「ほう、動きが良くなったな。」と彼が感心する中、俺は人差し指に魔力を貯め魔法を放つ。


「《太陽光線サンレイ》」


 その瞬間、彼は体を捻り避けようとするが肩に直撃する。


「ヴ!」

 

 彼は再生を試みるが先程の切り傷より再生がかなり遅れている。


「まさか、太陽の光を魔法で再現するとは」


 彼は驚愕の表情を浮かべて言う。

 

 そう、《太陽光線サンレイ》は前世の知識を活用し即席で編み出した魔法だ。太陽光に可視光線、赤外線、紫外線が含まれていることと、それぞれの割合と波長を知っていれば誰でも扱うことができる。光の適性があればの話だがな。

 

 だが、彼の驚きようを見ればどうやら太陽光の成分については知られていないらしい。

 

 このまま光魔法で吸血鬼の干物にしてやろう。


 そして俺は次の魔法を放とうと試みるが突然彼から白銀のオーラが吹き出した。

 

 そう、あの時のアリウスのように。


「流石だ。私は日光に対する耐性を持っているが吸血鬼の体では、せいぜい昼間に日傘をささず数十分だけ出歩けれる程度。弱点であることには変わりはないんだ。それを光線として喰らえば流石の私でも厳しい。故に、深淵スキルを使わせてもらう」


 彼を中心に膨大なエネルギーの渦が形成されていく。


「深淵スキル【常闇の大影海】」

 

 その瞬間、世界が白銀光に……染まらなかった。

 だが逆に、彼の影が広がり荒野の全てを侵食していく。


「顕現するは影の海。とくと味わうが良い」


 彼の影が俺の足元にまで侵食した瞬間……


 ドボン!


 俺は影の中へ落ちてしまった。いや、沈んだと言った方が正しい。まるで、浮力を伴わない黒い液体の中にいる感覚だ。

 

 時間が経つとともに落下速度が増していく。加えて呼吸をすることも叶わない。


 まずい。これは絶対絶命の大ピンチってやつだ。


 考えろ。

 

 この状況を打破することができる方法を。


 俺は思考加速を思いっきり働かせて考える。


『主人様、統合スキル【火炎放射】はどうでしょう?』


 そうです。これがナビゲーターさんです。いざという時に頼りになる有能スキルそれがナビゲーター。


『私を統合する時はよろしくお願いしますね?』


 俺をおちょくらなければ完璧なんだよな。


 俺は早速、両手両足からスキル【火炎放射】を発動するとロケットのごとく地上へ推進していき影の海から脱出することに成功した。


「ぶはあ!死ぬかと思った」


 ちなみに俺は今しれっと空を飛ぶことに成功している。なんだろうか、今の俺の姿はどこかで見たことがあるような……いや、気のせいだな。俺は超がつくほどの天才でもなければナビゲーターさんは超高度なAIでもない。うん、気のせいだ。


 そんなことを考えていると目の前には黒い大波が出現し俺を飲み込もうとする。


 故に、俺は高度を上げ回避し上空を飛び回るが黒い液体でできた触手たちが俺を追尾する。


『これが、影の支配者と言われる所以ですかね?』


「だろうな。あの触手に捕まればまたあの影の海に沈められる。俺が空を飛べることについては想定外だったんだろう。かなり焦っているな?」


 俺の視線の先には汗を垂れ流しているリッチモンドが居た。


 恐らく、この深淵スキルはかなり神経を削られるのだろう。


 時間を稼げばいずれ決着はつく。

 

 しかし、俺はそんな回りくどいことはしない。

 

 もう既に、彼を仕留める魔法は出来上がっているのだから。


「終わりだ!《収束する数百万の太陽光線ミリオンサンレイ》」


 その瞬間、上空にある無数の《光球ライトボール》が一つに収束し特大の《光球ライトボール》が出現した。


 そう、逃げ回っている最中に数百万の《光球ライトボール》を上空に生み出しておいたのだ。流石に自身の魔力量では限界があったので額にある虹石を使い魔力変換で魔力を補わせてもらった。


 そして、特大の《光球ライトボール》がより一層輝きを増した瞬間荒野に広がる影の海全体に太陽光線が降り注いだ。もちろん、その中にはリッチモンドも含まれている。


 彼は影の海を操り自身を防御するが、俺は瞬時に彼の周囲に《光球ライトボール》を無数に設置することで影を消すことに成功する。


「ぐががががが!す……素晴らしい。まさか……私がやられるとは」


 彼は断末魔とともにそんな言葉を残すと光の中へ消えていった。

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