10話 第八階層 真祖の赤黒槍1
第八階層に転移した二人は第七階層にあった城に引き続きとある建造物を発見した。
満月の光が一面の草原を照らす中に一軒のログハウスが佇んでいる。
家の中からは生活の光が漏れて、煙突からは夕食の準備の煙がうっすらと昇っていた。
「また、英霊とかかな?」
俺は、新品の黒のレザーアーマーを身に纏い周囲を警戒していた。
『いいえ、フロアボスの気配が致しませんので恐らく冒険者の可能性がございます。ひょっとしたらこの階層は既に攻略済みなのかもしれませんね』
何?もう攻略されちゃってんの?
でも、十年間第六階層にいたけど冒険者らしき人には遭ってないんだけど?
『恐らく、主人様が転生する以前にいらっしゃる方なのではないかと』
最低、十年以上はいるってことだよね?アリウスに聞けばわかるかな?
『御本人に聞けばよろしいのでは?少なくとも悪意や敵感知には引っかかってはおりませんので魔獣という線はないでしょう。それに、ログハウスの住人の方は既に我々の存在に気がついております』
気がついていて、敵感知に引っかからないのであれば危険はないのか?
挨拶しに行ってみるか。
突撃!あなたの晩御飯!てな感じで。
二人は警戒を解かずログハウスに近づきドアをノックした。
数分後、ドアから姿を現したのは銀髪赤眼のイケオジが出てきた。黒の燕尾服に首からはロザリオをぶら下げている。
「ようこそ、どうぞ中へ」
とても渋い声だ。
「お、お邪魔します」
俺たちは言われるがままにお邪魔させていただいた。
外は少し冷えていたため部屋いっぱいに広がる木のぬくもりが心地よい。
「久方ぶりの客人だな。お前さんらは冒険者か?」
「いえ、自分は冒険者ではないですが連れは冒険者です」
俺は彼女に話を振った。
「僕はギルド〔暁の星〕に所属するソロのSランク冒険者ナタリア・グレイサーです」
「ほう、ロギの所の冒険者か?であればお前が夜明けの錬金術師だな?」
「皆んなからは、そう呼ばれているね」
やっぱり、師匠は意外に有名人らしい。
「それで、お前さんは何者だ?」
次は俺の番か。なんて自己紹介しようかな?
「弟子のセナです」
俺は横にいる彼女を見てそう言った。
「将来は錬金術師になるのか?」
「いや、錬金術師にはならないよ。強いて言うなら冒険者になろうかと思っている」
異世界を満喫したいからね。お金は大事だ。だから、場所を問わず稼げる冒険者は魅力的だ。
「ほう、冒険者か。であれば後輩ということになるな」
「貴方は冒険者何ですか?」
「そうだな、今度はこちらから自己紹介をしよう。私は、リッチモンド・ウェンチェスター。魔帝国では伯爵位を授かっていた。今は我が子に跡を継がせ今は隠居の身だ。昔はSランク冒険者として活躍していたこともある」
すると、師匠が驚きの声を上げた。
「まさか、あの終焉獣殺しに成功したギルド〔シュヴァルツ〕のマスターにお目にかかれるとは。名前だけなら知っていたのだがどうも顔を覚えるのが苦手でね」
アリウスの時もそうだったな。あれの時は仕方がないとして今回はご存命の人なんだけど?単純に顔を覚えるのが苦手だったのか。
「まぁ仕方があるまい。我々、長寿種族によくあることだ。長年生きていると物忘れが激しくなる」
あるあるなのか。
我々ということは彼はどんな種族なんだろう。
「私も吸血鬼として長く生きたからな。家族のことは覚えているのだが、昔よく通っていたBARの店主の顔を全く思い出せなくなっている。もしかすると、既に寿命を迎え亡くなっているのかもしれないがな」
彼は少し悲しげな表情を浮かべた。
吸血鬼なのか。
そうだよな。寿命が長いと当然別れる機会が多くなる。
俺には寿命がないからいずれ師匠と別れる日が来るだろう。
その時が来たら、俺は耐えられるのだろうか?
「まぁ、私にはまだ家族がいる。孫の顔を見るまでは死ねんな」
彼は、ケラケラと笑う。
「しかし、このダンジョンの最下層には死のうと思っても死ぬことが叶わない哀れな竜がいるがな」
死のうと思っても死ねない?不老不死ってことなのかな?
「私達は、まだ死ぬことができる。しかし、不老不死ともなれば永遠に生き続けなければならない。彼にとっては最早生き地獄だろう」
「最終階層には永久聖竜がいるんだったか?」
永久って言うのだからかなり長生きなやつなんだろうと思っていたがまさか不老不死だとはな。
「いずれ自分を屠ってくれるものに出会うためにダンジョンのシステムに介入し最終階層のフロアボスとして住み着いているらしい。私も一度挑戦してみたのだが手も足も出なかった。そういえば私がここに移住する前、ロギが攻略に乗り出していたな。失敗に終わったらしいがあれは正真正銘の怪物、超越者だ。倒せるわけがない」
そんなにやばいのか。でも、探せば居るんじゃないか?不老不死を殺せる深淵スキルが。わざわざフロアボスになんかならなくても良いのに。
『竜はプライドが高いですからね。死にたくても弱者には負けたくはないのでしょう。言わばこのダンジョンは永久聖竜が強者の選別をするにあたってうってつけの場所だったのではないのかと』
ダンジョンのシステムを逆に利用したと。
プライドのせいでより死ににくくなっちゃっているのか。
そういえば、さっきからそのロギって何者なんだ?
「ロギって誰です?」
俺の問いに師匠が答える。
「あぁ、言い忘れてた。ロギっていうのは、僕が所属するギルドのマスター。前言ってた現役最強の冒険者のこと」
なるほど、このダンジョン攻略に匙を投げた最強の冒険者のことか。
「立ち話はここまでにしてディナーでもどうかな?今日は少しばかり多めに作ってしまってね」
知ってて作ったんだろうな。
だが、ご相反に預かろう。せっかく作ってもらったんだから食べないとな。
決して美味そうな匂いに釣られたからではない。あくまで吸血鬼について興味があって色々な話を聞きたいだけだ。いいか決して………………
◇
ふぅ、美味かった。まさか、異世界でペペロンチーノを食べられるなんて。ていうか、ニンニク料理多すぎ。ガーリックステーキにガーリックフランス。本当に吸血鬼なのか疑っちゃったよ。でも、この世界の吸血鬼は平気らしい。日光には弱いけど普通に鏡には映るし影もある。おまけに銀でできたロザリオを首にかけてる。
ちょっとだけがっかりした自分がいるのは気のせいだ。
「さて、お前さんらはこのダンジョンを攻略しに来たということでいいんだな?」
「厳密にいうと僕は参加していないけどね。もちろん危なくなったら参戦するけどセナくんは一人で攻略したいらしい」
「つまり、アリウスをソロで倒したということか?」
「ええ、倒しました」
「ふむ、素晴らしいな。少し覗かせてもらうぞ」
その瞬間彼の目が赤く光り出した。
「たまげたな。まるで夜空に浮かぶ月……いや、太陽か」
彼は感嘆の声を上げた。
「それでいて、未だ覚醒には至っていないとは。面白い」
彼は、どこか子供っぽい笑みを浮かべ、話を続ける。
「このダンジョンを攻略するということは、現役最強の冒険者が匙を投げたダンジョンを攻略するということだ。お前には出来るのか?殺すことができない生物を殺すことが?」
「やって見ないとわからない。だけど、攻略は必ずする」
「ふむ、よかろう。あいにくこのフロアボスに関しては既に倒してしまってな。転移陣は既に起動している。」
もしや、この流れは……
「しかし、タダでは通せんな。ここは一つ私と手合わせをしないか?もし、私が負ければ素直に転移陣の使用を認めよう」
「俺が負ければ?」
「500年間、私の召使いとしてタダ働きをしてもらおうか」
絶対負けられねー!500年間タダ働きだと?社畜顔負けのブラック労働じゃねーか!
「ご飯は出ますか?」
一応聞いてみた。
「私の食べ残しがお前の飯となるな。ちなみに私は野菜が嫌いだ」
子供か!俺も嫌いだけど。尚更負けられないな。
「わかりました。その勝負受けます」
「であれば、明日……と言ってもここはずっと夜だからな。我が家から北に10キロほど進んだ場所に荒野がある。今から8時間後、その荒野に集合だ。万全の状態で来ると良い。それと部屋は自由に使っても構わないからな」
そう言葉を残し彼は寝室へと向かって行った。
「とりあえず、風呂に入るか」
俺は明日に向け早めに床に就くのであった。
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