07話 第七階層 剣神の王城1

 転移が終わり、初めに視界に映ったのは巨大な湖の中心に聳え立つ中世ヨーロッパ風の城だ。


「ダンジョン内に城が建ってるんだけど?」


 俺は驚愕の表情を浮かべるが師匠は何食わぬ顔で説明し出した。


「恐らく、あの城の中にこのフロアボスが存在しているんじゃないかな?フロアの環境を変えることができるのはフロアの主人のみ。つまり、あの城を生み出したのはフロアボスってことになるね」


 なるほど。

 

「そういえば、このダンジョンって未踏破って言われてるけど攻略をしようとした人がいるんだよね?前に言っていた最強の冒険者ってどこまで攻略したの?」


 最強なのに断念したってことはこのダンジョンって本気でやばいところなのか?


「確か、最終階層である十階層まで行ったと言っていたけれど最後のフロアボスの持つ深淵スキルが彼の深淵スキルと相性が最悪だったから諦めたらしい。それ以前に生物の格が違いすぎてコテンパンにやられたって言っていたね」


 格って……努力でどうにかなるものなのか?


 幸先がとても不安だが今はこの階層をクリアすることだけに集中しよう。


「まぁ、それよりもあの湖に浮かぶ孤島まで行くためにはどうしたら良いか考えないとね」


 そして、俺たちは一度思考を巡らせる。

 その時だった。

 突如大きな地震が起きたかと思えば湖の中から橋が現れたのだ。


「来いって言ってるのかな?」


『敵意はございませんので渡っても大丈夫かと』


 ナビゲーターさんが言うなら大丈夫か。

 俺たちは遠慮なく橋を渡らせてもらいその後城門の前まで進むことができた。


「近くで見るとより迫力が増すなー!」


 俺は初めて、生で城を見物できて興奮している。なんせ城を見る機会なんて世界史の教科書からでしかないのだから。


「あれ?この城どこかで見たことが……」

 

 師匠がなんか意味深な発言をするがその瞬間、城門が勝手に開き始めた。


「じゃあ、なんか入っても良い感じだから少しだけお城探索でもするかー?」


 どうせ玉座の間でふんぞり返っていそうだしなぁ。


 フロアボスには悪いが少しばかり家宅捜索お城見学させてもらうとしよう。

 


 ◇

 


 ・西の庭園


 「此処は、いろんな花が咲いてるね?」


 今俺たちがいるのは西にある庭園。城の内部は既に見学を終え今は南の庭園から反時計回りで見学中。


「そうだね。パネシアが好きなのかな?」


 目の前にある花はパネシアというパンジーのような花だ。


「特に白が多いよね?」


紫も中にはあるけど圧倒的に白が多い。


「確か白のパネシアの花言葉は平和を願うという意味だったかな?」


 平和か。なんかボスらしくない花言葉だな。


 そう思っていると師匠は何かに気がついたらしい。


「あれ?向こうに誰かいない?」

 

 パネシアの花畑の中心にはガゼボが建てられている。

 

 そのガゼボ内でガタイがかなり良い男の人影がチラッと見えた。


「行ってみようか」


 俺たちはその人影の正体を突き止めるべくガゼボへと向かう。


 ガゼボへ着くとそこでは一人の男が紅茶を嗜んでいた。


「遅かったな、挑戦者よ。待ち侘びたぞ」

 

 まず、左目には傷があり顔以外は漆黒の鎧で身を包んでいた。髪は黒髪でスポーツ刈り。見てわかる騎士って感じの人だ。年は40後半といった感じかな?


「ふむ。玉座の間でふんぞり返っていたのだがお主たちが中々来んのでな少しばかり紅茶を嗜んでいた」


 本当に玉座の間でふんぞり返ってたのか。


「貴方がフロアボスで良いのか?」

 

 一応確認を取る。


「いかにも。我はこの階層のフロアボス、アリウス・グラトキエール・ダ・ライベリアだ」


 彼が名乗ると、師匠が驚きの声を漏らす。


「え?アリウスってあの剣神と呼ばれていた初代ライベリア国王じゃないか。なんか、見覚えある顔だな〜って思ってたら歴史の教科書に載ってたわ。落書きしちゃったから思い出すのが遅くなっちゃったよ」


 やるよねー。分かるわ。


「そうだな。元ではあるが一国の王をしていたことがあるな。最早遠い昔だが」


 あれ?それだったらなぜダンジョンのフロアボスなんかやっているんだ。遠い昔ってことはこの人何歳なんだろう?


「不思議そうな顔をしているな。ちなみに我は既に死んでいる。今は英霊としてこのダンジョンに縛られているがまぁ、この状況になったのは全て我の意思だがな」


 このおっさんは英霊なのか。

 って英霊ってなんだ?


『英霊とは未練を残しこの世を去った英雄の魂源体。言わば死霊系モンスターの仲間です。強い未練と甚大な量の魂輝を保有している者が英霊へなることが多いです』


 なるほど。


『そして、本来英霊とは聖獣界と言われる召喚獣が住まう世界にて死霊から転化を果たしますが、ごく稀にダンジョンにて埋葬された英雄がダンジョンから生成される濃い魔素によって転化することがあります』


 つまり、彼は後者ということだな?


『その通りです。ダンジョンで生まれた魔獣は制約によってダンジョンの外には出れません。英霊に関しては召喚獣という括りにされていますが基本召喚獣とは知恵がある魔獣とされているため彼はこのダンジョンの制約により外に出ることはできないでしょう』


 なるほど、それはなんか嫌だなー。


『そうですね。ですが、英雄が英霊ではなく悪霊になってしまったら手がつけられませんからね。『我』の意思と言っていたのは恐らくその事が理由でしょう』


 王様だからかな。一番安全な選択をしたということか。

 


「さて、挑戦者よ。別段、今から死合っても構わないが場所を移さんかね?ここだと花畑が荒れてしまうだろう」


 俺は、アリウスの提案に承諾した。

 

 流石にこんな綺麗な花畑が荒れるのは嫌だな。


「であれば、着いてくると良い。修練場へ向かおう」


 

 ◇


 西の庭園から城内に入りすぐの場所に修練場が存在する。内装は石造りで丈夫さを追求した無骨な部屋といった感じだ。今回師匠には観客として席に座ってもらっている。最初は共闘するかと言われたが今の自分の実力を知りたいから遠慮してもらった。

 

 そして、目の前には全身漆黒の鎧に身を包む大柄な騎士が剣をぶら下げこちらを見ている。


「我は、挑戦者が現れたら必ずとある質問をさせてもらっている。」


 ん?質問?


「お主は何のために戦う?」

 重く重量感のある声で語り掛けてきた。


 戦う理由か?そうだな……


「俺の大切な人を守り悲しませないために俺は戦う」


 言葉にすると少し恥ずかしいな。


「大切な人を守るためだけではないのか?」

 

 アリウスから困惑気味に質問を投げかけられた。


「守って死んだら悲しむだろ?じゃあ、大切な人を悲しませないためにやらなきゃいけないことなんて最初っから決まっている」


 場が静寂に包まれている中俺は続けて言う。


「守って生き残る!つまり、完全なる勝利を手にすることだ!最後は必ずハッピーエンド異論は認めない!」


 それを聞いたアリウスは最後の質問をする。


「お主にとっての大切な人とは誰ぞ?」


 これも答えなきゃいけないのか?!し、仕方ない。


「師匠だ。あそこで、クッキーを頬張っている人だよ!」


 観客席でクッキーを貪っていた師匠だが突然のカミングアウトに口からクッキーをぶちまけた。


「せ、セナくん……」


 師匠は涙ぐませながら言う。


「か、勘違いするなよ!異世界で親切にしてもらって十年間一緒に過ごしたから俺にとって……そう師匠として大切なって意味だからね?」


 いやツンデレか!自分で言って気持ちが悪いぞ?


『可愛いですよ?ぷ!』

 

 たまに、煽るよね?煽ってほしくない時にピンポイントで!

 ちょっと待って?精神的に疲弊してきた。

 まさか、これが狙いなのか?

 この、ど腐れキングが!


「ふむ、良き答えだった。しかし、それを成すには力がなければならない。お主にはあるのか?」


 アリウスの挑発に俺は挑発で返す。


「そのための十年だからね?それに多分だけど直ぐに決着つくよ。花畑で戦っても荒らさず君を倒せる自信がある」


 言いすぎたかな?


 それを聞いたアリウスは盛大に笑う。


「フハハ!であれば見してくれ。口だけではないと言うことを」


 その瞬間、俺たちの死合いが始まった。

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