04話 虹色の石

 エデン。それは旧約聖書でいう、人類の始祖アダムとイブが暮らしていた楽園。


 そう、楽園なのだ。楽園の定義は人の感性によって変わる。決してアダムとイブが暮らしていたから楽園なのではない。


 つまり、何の変哲もない石や宝石が無作為に散らばった部屋をエデン楽園と呼ぶものがいれば、そのものにとってのエデン楽園とは、そういうことなのだろう。



『なるほど、道中にゴーレムを見かけなかったのはこのユニークスキルの持ち主のせいでしたか』


 アレだ!あの虹色に輝く石がエデンの香りの正体だ。


 多種多様な石が散らばっている中、虹色の石だけ透明なガラスケースに保管されている。


『此処は研究室なのでしょうか?』


 ガラスケースの周りには顕微鏡にフラスコ、怪しげな紫色の液体などが机の上に置かれている。そして部屋の端には綺麗にベッドメイキングされたシングルベッドがある。いわゆる間取り1kといったところか。


 それよりも、食べよう。


 俺は待ちきれず、そこら辺に散らばっている石もしくは仕舞ってある鉱石等を片っ端から食らっていく。

 

 そして、デザートはもちろん虹色の石だ!

 

 俺はガラスケースを猫パンチで砕き割、虹色の石を取り出す。


 この芳醇な香りは!

 ま、まさしく運命の出会い。


 がぶりっ!


「!?」

 

 口の中で7回味が変化した。最初はりんご、その次はみかんにバナナ、キウイ、ブルーベリー、ブドウ、プルーン。


 これはうまい。力が漲ってくる!ってあれ?なんか俺の体虹色に光ってね?


『おめでとうございます。それは恐らく種族進化でしょう』


 種族進化?


『はい!種族進化とは、環境、スキル、種族特性など様々な要因が自身の内包する生命エネルギーに影響を与え、変質し、より上位の存在へ押し上げることを意味します。主人様の場合、スキル【石喰い】による虹色の石に含まれる莫大なエネルギーを摂取したことから生命エネルギーが変質し、より上位の存在へと体が作り変わろうとしているのです』


 なるほど。虹色の石のおかげって訳か。


『その通りです。ちなみに石や鉱石、宝石などで進化する生物は主人様ただ一人だけでしょう』


 【石喰い】万歳!でも……

 

 ……なんか……めちゃくちゃ…………眠くなって来た。


 まずい!此処で眠るのは非常にまずい。この部屋の住人が戻って来たら終わる。


 しかし、圧倒的な睡魔には抗えず机の上でへそ天することになった。


 ……ナビゲーターさんあとは任せた。


『今まで楽しかったですね?』


 ……ナビゲーターさん……諦めないで。


『短い間でしたが……』


 これは絶対絶命だな……


 ◇


 目覚めると見知らぬ天井。いや、あの研究室の天井だ!


 しかし、なんだろうか?お腹を誰かに触られている感触がする。いや撫でられているのか?


「おや?起きたようだね?お寝坊さん」


 な!?


 目の前には白衣を着た絶世の美女。深緑の髪に透き通るような赤い瞳。そして何よりも目を引くのは、あの長い耳だろう。


 もしかしてエルフ?


「そう、僕はハイエルフだよ」


 何と、異世界での初めての出会いがハイエルフとは!幸先が良いな!っていうか何で会話が成立しているんだ?


「僕には読心というギフトを授かっているんだ。ある程度は君の心の中を読めるんだよ」


 ほう?


『主人様はあらかじめアドミニストレータ様によりこの世界の共通言語をインプットされておりますので言語を理解できているのです』


 ほうほう。なるほど。

 

 …………もしかして盗み食いしたのバレてる?


「もちろん。此処は僕のユニークスキルで顕現しているからね。遠隔視で見ていたよ」


 リアルタイムでしたか。


 わかった!全てがわかったぞ!

 

 このお腹を撫でているのは肉を柔らかくするための工程。このあと、俺をステーキにしていただくのだな?


「いや、ただ撫でていただけだけど?そもそも、あまり気にしていないよ。虹石を食べられたのは少し痛いけどそれよりももっと珍しい子に出会えたしね」


 珍しい子?


「君だよ。見たこともない魔獣だね?どこからやって来たの?変異種かな?もしかするとユニーク個体?だとすると世紀の大発見じゃないかな」


 どうやら、死亡エンドは続行らしい。

 俺はこれから人体実験いや実験動物として一生飼い殺されるんだ。


「………………」


 いや、否定しろよ!


「もちろん、そんなことしないよ!」


 虹石だっけ?あれって大事なものじゃないの?


「まぁ、かなり希少だけどエルダーゴーレムを1000体倒せば出てくるしそれに……」


 彼女は俺の額に人差し指を当てると「既にあるしね。」と言った。


 ん?俺の額に?


 俺は机の上にに立てかけられている手鏡を覗き込んだ。


 嘘だろ?


 俺の額にはさっき食べた虹石がついていた。


 形は菱形に変形しているが紛れもなく虹石だ!


 一応ステータスの確認をしよう。


名前: 【セナ】

種族: 【虹石幻獣イーリスカーバンクル

称号: 【異界の転生者】 【進化を果たす者】

魔力階梯:【第一階梯】

闘力色:【黒】

深淵スキル:

ユニークスキル: 【ナビゲーター】【鑑定眼】【石喰い】

スキル: 【遊泳】【陽炎】【視線誘導】【気配感知】new【砂かけ】new【風化】new【土塊操作】new【土人創造】new【凝縮】new【超硬化】

統合スキル: 【大獣の威厳】【氷天極鎧】【火炎放射】【幻想世界】【疾風迅雷】【千変万化】

ギフト:【スキル統合】

魔法適正:【光】


種族が変わっとる。虹石を食べたから虹石幻獣か。


 幻獣ってなんか響きが良いな。なんかレア感があって。

 

 それとスキルが増えてる!

 


「まぁ、それは僕からのプレゼントということで……」


 いやいや、というか虹石って何?


「虹石はデメリットなしで周囲の魔素を魔力に変換できる石だよ。一つあれば国一つ分のエネルギーを賄えることができる、国宝級の鉱石さ」


『主人様は種族特性として半永久的に周囲の魔素を自身の魔力に変換することが可能になりました』


 俺は、なんていうものを食っちまったんだ。

 なんか俺に出来ることがあればなんでもしよう。

 

……実験動物以外で。


「それじゃあ、このまま撫でさせてほしい」


 え?それだけ?


「君は自分自身を過小評価している。君のもふもふさは、世界レベル。全モフラーが君を見れば二度見確定さ!この毛艶といい耳といい、おまけに尻尾が2本ついてると来たもんだ。故に君を無償で且つ僕が撫でたい時に瞬時に駆けつけ股を開くんだ』


 コイツ、生粋のモフラーだ!

 そしてなんか卑猥だし!

 だが、撫でられるだけなら良いのでは?

 むしろ、他にはないのか?


「他にか?であれば君のことを観察したい。僕は、此処で単に虹石を取りに来た訳じゃないんだ。虹石を人工的に作れないか実験していたのだよ。そこで君は虹石を食べその虹石を身に宿した」


 つまり?


「虹石については未だ未解明なのだ。ただ魔素を魔力に変換出来ることしかわかっていない。そこで君というイレギュラーが現れた。君が虹石を取り込んだんだ、今までうんともすんとも言わないあの虹石が君に取り込まれた。故に君の行動から及ぼす虹石の変化を調べたいのだよ」


 なるほど、俺を観察するのではなくあくまで虹石の観察か。


「その通り。でもこれだと君があまりにも不利益を被る」


 虹石食べちゃったし妥当じゃない?


「否!それは否だよ!虹石は別に紛失した訳じゃない。逆にもふもふに取り付いて僕にとっては一石二鳥さ!モフって観察出来る。最高じゃないか!」


 こいつがモフラーでよかったわ。


「さぁ。言うといい。君は僕に何を望む?」


 俺は…………

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