第30話

 一日の勤めを終え、今日もしっかり勉強出来たという満足感を伴い学校を出る。目前に控えた中間テストで良い点を取る為、俺は塾の時間まで自習するつもりで、行きつけの喫茶店に向かっていた。

 その時だった。

 一台の平凡な自動車が俺の眼前で停車した。見覚えのない車だった。脚を停めた俺の前で窓が開くと、顔を見ても夕日や弟妹のようには心が安らがない身内が姿を現す。

 「おう未明。乗れよ」

 深夜だった。俺は「なんだよ」と目を丸くして深夜に答える。

 「いや兄ちゃんその車何? 見覚えないしウチの車じゃないよな」

 「ああ。友達から借りたんだ」

 「兄ちゃんに友達とかいんのかよ」

 「いるよたくさん。無職友達とかパチンコ友達とかネトゲ友達とか」

 「それは何友達の車だよ」

 「駅前の階段にたむろして女子高生のパンチラを覗き友達だ」

 「ダルい冗談はやめろっての。で、何の用?」

 「だから乗れよ」

 「何のために?」

 「いいから一端乗れ」

 「だから何のために?」

 「いいから」

 「理由言ってくれないと乗る気になんねぇ」

 「せっかく車借りられたんだから軽くドライブ付き合えってだけだよ。たまにゃ男同士の話をしようぜ」

 「嫌だね」

 「何で?」

 「怪しいんだよ。車の運転嫌いなら俺のことも嫌いな兄ちゃんが、友達の車借りてまで俺とドライブとかありえねぇ。別に怪しくなくてもこれから自習のつもりだから乗るつもりないけど、怪しいから尚のこと乗りたくねぇ」

 「俺別におまえのこと嫌いじゃねぇよ」

 「嘘だ。兄ちゃんは朝日と正午のことは別に普通だけど、俺と夕日姉ちゃんのことは嫌いなはずだ」

 「言ったことねぇだろそんなこと」

 「態度で分かる。ニートな自分へのコンプレックスで優秀な身内疎んでるとかじゃなくて、人間としてガチ嫌われてるのが分かる。夕日姉ちゃんはそれでもおかまいなしだけど、俺は一応上手いこと気ぃ使ってんだよ。険悪はやだしな」

 「仮にそうだとしてもたまには気が向くことだってあるだろうがよ。嫌われてると思われてんなら尚のこと話しようや。誤解を解いておきたい」

 「兄ちゃんがそんな細やかな人間関係のケアをする訳ねぇだろ」

 「良いから乗れよ」

 「しつこい男は嫌われるぞ。駆け引きの出来ねぇ奴だな。顔も頭も良いのにモテねぇのはそういう不器用なとこだぞ? 人生上手くいかねぇのもな。なんかあって俺を乗せてぇんなら、家の車で来て家の用事でっちあげるんだったな」

 「それやったらおまえ、親父なり姉貴なり電話して裏取るだろ」

 「そりゃそうさ。しれっと『乗れ』とだけ言ったのは作戦として悪くねぇと思うけど、それが通じるのは朝日までだな」あいつアホだし。「俺には通じねぇ」

 「じゃあどっちにしろ無理じゃねぇか。しゃあねぇ無理矢理攫ってくことにするわ」

 そう言って、おもむろに扉を開けゆっくりと車体から降りる深夜。俺が逃げないと思っている。さてどうするか。

 格闘でこの兄に敵うかどうかを検討する。中三の時一度ぶちのめされたことはあるが、それは過去だし年齢差もあってのことなので参考にしない。あの時より俺は身長も伸びたし腕だって上げた。あの時の雪辱を果たすには良い機会と捉えるべきなのだろうか?

 俺は喧嘩は嫌いじゃない、実は好きな方だった。腕前にもかなり自信があった。しかし車には乗らずとも格闘の誘いには乗ると思っている深夜の思惑に、ただ従うのも癪だった。

 結局俺は身を翻して逃げることにした。俺の内なる好戦性を見抜いて格闘を持ちかけていた深夜はこれに驚いたようだ。

 「待てや未明!」深夜は俺を追い掛けて走り出す。「逃げんじゃねぇ! ぶっ殺すぞ!」

 「ぶっ殺す言ってる奴に立ち止まってりゃ世話ねぇよな」俺は笑いながら逃げまくる。

 互いに勝手知ったる街だ。路地を縫い大通りを抜け裏道も使い、俺達はしばらく追いかけっこを演じることにした。深夜の体力は衰えておらずぴったり俺に付いて来た。

 しかし困った。体力ならともかくアタマで負ける訳がないと思っていたが、実際には俺は路地裏に追い込まれ、壁を背にして追い詰められていた。かつての憧れの兄とのチェイスに敗れ、俺はいっそ清々しい気分で、じりじりと距離を詰めて来る深夜の前に両手を晒した。

 「参ったよ。分かった。格闘に応じる」俺は飄々と言って、鞄を投げ捨てた。「ああ、気が進まねぇ」

 「嘘を吐け」深夜はうんざりとした様子だった。「本気で腕付くが嫌だったんなら、人気のある場所に留まれば良かったじゃねぇか? それをしなかった癖に良く言うよ」

 「俺がどこで何を叫ぼうと、兄ちゃんは無理に連れて行っただろ?」

 「そうでもねぇ。俺にだって恥や外聞はある」

 「それこそ、嘘吐け」

 「恥や外聞はなくても都合や思惑はある。それを潰したいだけなら、大声出して交番に駆け込めば一発だったろうがよ。そのチャンスはあったはずだぞ?」

 俺はへらへらと笑って言う。「しばらくぶりに兄ちゃんと鬼ごっこで遊びたかったんだ。逃げ切れると思ったし逃げ切りたかったんだが、まあ負けても十分楽しいよ。だけど、次の戦いごっこじゃ負けねぇよ?」

 「正午と遊んでろ」深夜は吐き捨てるように言った。「おまえ、やっぱムカつくわ。人間として糞ムカつく。ぶっ殺すわ」

 そう言うと深夜は俺の方へと力強く踏み込んで腕を伸ばして来る。掴み合いとか放棄して、いきなりグーパンだ。それも顔面に。

 そんなもん食らう訳にはいかないので俺は体を捻って回避する。この時最小限度の動きで対応するのがかなり大きな喧嘩のコツだ。大きく逃げれば相手に追撃の余地が生まれるが小さく避ければ逆にこっちが反撃できる。分かっていても簡単にできることじゃないが俺だって場慣れはしている。

 俺は深夜の懐に踏み込んで腹にパンチをお見舞いした。しかし深夜は最初のパンチを躱されるのを予期していたのか、両腕を前に出して上手くガードする。攻勢から守勢への切り替えの早さスムーズさは俺のこれまでの敵の中で一番だった。思わず舌を巻く。衰えてない。

 その後も一進一退の攻防が続く。深夜のパンチは重く、どうにか拳や腕で受けても、痺れ返ってかなり痛い思いをする。しかしフットワークでは俺も負けてはおらず、守勢に回り続けていればそうそうクリーンヒットされはしない。

 「ちょろちょろ逃げんな」

 深夜の放つ蹴りを、俺はしっかり身を退いて躱す。ぎりぎりまで引き付けようとして失敗し、カス当たりを貰うという展開が何度かあったのだ。深夜の攻撃は速く鋭く、クリーンヒットでなくてもそこそこ痛い重さがある。多少大げさに回避しないと危ないと気付いたのだ。

 「そっちこそ受けんな」

 俺が踏み込んで右手でパンチを放つと深夜は片手でそれを払いのける。左手でもう一発。払いのけられる。そして最後にストレートを放った。ジャブ二回とストレートのお決まりのコンビネーション。お決まりなのはそれが有効なテクニックだからで、自信もあったのだが、深夜が回避に徹した為にカス当たりに留まった。

 しかしカス当たりとは言え俺の攻撃が深夜にヒットしたのは初めてのことだった。距離を取った深夜は「いってぇな」と忌々し気に吐き捨てる。

 「わあい。お兄ちゃんに攻撃が当たった」俺はおちょくるように言ってはおくが、実際には息も絶え絶えである。

 「おめぇみたいな青瓢箪、もっと簡単に畳めると思ったんだがな。粘りやがる」深夜は皮肉と倦怠の混ざった声で言った。「しゃあねぇ。その気はなかったんだが、奥の手を出す」

 「なんだよ奥の手って」

 「チビる思うぞ?」

 「へえ。中二病の症状でも使うのかい? お天気お兄さん」

 「そんなところだ。気付いてたか? 俺が中二病患者だって」

 「気付かねぇ訳ねぇだろ」俺はけらけらと笑う。「百発百中の天気予報なんて気象庁でも出来やしねぇ。俺や夕日は確信してたし正午だって薄々感付いてて黙ってるだけだ。疑ってもねぇのは朝日くらいなもんだ」

 「そうか。マジであいつアホだよな」

 「ああアホだ。で、お天気お兄さんに何ができるんだ? 明日の天気が雨だったらどうやって俺に勝つんだよ」

 「こうするんだよ」

 言って、深夜は靴を脱ぎ捨てて、その片方を拾い上げて以下のように叫んだ。

 「未明に雷おーちろっ!」

 そして靴を正しい向きで地面へと叩きつける。何をアホなことを言っているのかと思っている俺の頭上に、眩い蒼天から雷が降り注いだ。

 本日は快晴で落雷確率は零パーセントのはずだった。増してそれが俺の頭上に降り注ぐなど天文学的な確率だった。しかし深夜の天気予報は成就して、俺は雷を貰ってあまりの衝撃にその場で崩れ落ち倒れ伏した。

 「あひゃひゃひゃひゃっ! どうだすげぇだろう!」深夜は腹を抱えて高らかに笑う。「俺の天気予報は百パーセント当たる! だから俺が予報したことは全部現実になるんだよ!」

 「こ……こ……こんなのっ」俺は立ち上がる為に地面に手を着こうとするが上手く行かない。「……こんなの予報じゃないっ!」

 雷が落ちたような衝撃という比喩があるが、まさか本当に体験するとは思わなかった。その衝撃は骨が砕けるようであり首筋や肩は焼けただれ服は破れ、帯電した電気の所為で今も全身は痺れ続けている。喋れているのも奇跡に近かった。

 「安心しろ。雷に打たれる奴は日本にも何人もいるが、生き延びる確率の方が遥かに高い。死亡率は精々10パーセントってところらしい。おまえの場合、喋れるくらいだから心肺停止もないし、絶対に大丈夫だよ。タフだな」

 「だとしても……10パーセントは死ぬんだろ」俺は恨み言を言う。「おまえ……弟を殺す気だったな」

 「死なねぇだろ? もし今死ぬ運命だったらおまえはそんな平気な顔で過ごしてねぇ。自分の寿命だって見えてるんだろう?」

 「何を……言って」

 「おまえだって中二病患者だろ? 人間の寿命が見える能力者だ」深夜はゆっくりとこちらに近付いて、勝ち誇るように俺を見下ろす。「空桜っつってな。おまえが殺し損ねて、代わりに模倣犯に殺された女がいただろう? そいつが一目で他人の症状を見抜く中二病患者で、俺ら『アヴニール』の結社員は既におまえの症状を知っていたって訳だ」

 「訳分かんねぇこと……言いやがって」

 俺は息も絶え絶えながらどうにか思考する。

 空桜が他人の症状を見抜く中二病患者だったのは良い。どっかで俺とすれ違った時にでも症状を見抜かれたんだろう。深夜がそれと繋がっていて、俺の症状を知っていたことも、まあ偶然で済ませられる話だ。『アヴニール』とか結社員とかおめでたい言葉も聞こえて来たが、今のところそれは黙殺しておいてやって良い。

 しかし深夜の口ぶりは俺が『指切り』だと知っているものだ。何故バレている? どうやって深夜はそれに気付いた?

 「『指切り』の残した暗号を解き明かすと、『三ツ木小学校』という言葉が完成する」深夜は俺の前でしゃがみ込んだ。「そこに置いてあった金庫を開けてみると、中には各国の有名人達の命日がかかれた紙が入っていた。くだらない景品だ。おまえの症状を知ってる方からすれば、おまえが犯人だって言ってるようなもんだ」

 「おまえ……あの暗号解いたのかよ……?」

 「俺が解いた訳じゃねぇ。解いたのは夕日だよ。俺はそのデータを勝手に盗み見ただけだ。そしておまえが『指切り』だと気付いて殺しに来たんだ」

 「……姉ちゃんが俺の暗号を解いた?」俺は息も絶え絶えに言う。「なるほどな。確かに姉ちゃんならあれも解けるだろ。だが、待てよ……。それって、空を殺したのは姉ちゃんってことにならねぇか?」

 「空を殺したのは、やっぱりおまえとは別の奴か? 見立てが雑過ぎるから、そうだろうとは思っていたが」

 「ああ。それは模倣犯の仕業だ」俺は血液の混ざった咳を吐く。糞、医者に行きてぇ。「そいつは俺の暗号を解いて俺が記すはずだった符号を先回りして施しやがった。おまけに余計なヒントまでネットに書いてやがる。忌々しい奴だ。殺してやりてぇ」

 「俺もそいつの正体は分からねぇんだ」

 「暗号を解いたのが姉ちゃんなら姉ちゃんじゃねぇのか? 暗号を解いた奴にしか、空を殺す時あそこまで俺の犯行を模すことはできない」

 「俺もその可能性は濃厚だと思っている。なんせ動機がある」深夜は口元に手を当てながら思慮深い口調で言う。「……が、夕日の仕業にしては仕事が雑過ぎるのが気になるところだ。指の切り飛ばし方も雑なら指を持って帰ってねぇのも気になる。ああいうところで夕日が雑な仕事をするとは思えねぇ。だからやったとしたら夕日自身でなく、手先だろうな」

 「なんで姉ちゃんに空を殺す動機があるんだ? おまえらどういう繋がりなんだ?」

 無視して深夜は懐からスマホを取り出すと、何やらメッセージを打ち始めた。それを終えると、今度はタバコを取り出して火を付け始める。もう俺は立ち上がれないから実際問題ないのだろうが、忌々しい程にそれは余裕の態度だった。

 「おい。質問に答えろ」

 「……夕日は異能結社アヴニールっつーおめでたい名前の組織の創始者で、トップだ」深夜はタバコの煙を吐き出す。「俺はそこのナンバー2。空もまた最高幹部の一人だった。中二病患者が大手を振って歩ける社会の実現の為に、政府に立ち向かう正義の組織だ。立ち上げ当時高校生だった俺は、それなりに夢中になってその組織活動に邁進し、勉強を疎かにした結果東大に落ちた。その後、色々あって夕日や組織の活動にも失望しやさぐれて、今に至る」

 「そりゃ不器用なおまえらしいな」俺はせせら笑う。「つか深夜、おまえ煙草吸うのかよ」

 「吸うよ。夕日が煙草嫌いだから、家じゃ吸えねぇってだけだ」

 俺は生前の母さんが良く夕日の顔にタバコの煙を吐きかけていたのを思い出した。あれを食らった時の夕日の、嫌悪感と憎悪に満ちた顔と言ったらなかった。

 「そうかよ。だが空はそのアヴニールの幹部だったんだろう? 仲違いでもしたのか?」

 「夕日率いる過激派のやり方に付いて行けなくなった空達穏健派は、水面下で分裂し『サテライト』という抵抗組織を立ち上げた。俺はそっちでもナンバー2だ。表向き夕日に服従しつつ、裏ではメスガキ二人を使って夕日を殺し、『アヴニール』を乗っ取る計画を立てていたんだ」

 「内ゲバかよ」

 「だが鋭い夕日のことだ。俺達が裏切りを企てていることに勘付いていてもおかしくない。だからと言って大っぴらに空を粛正したんじゃあ、空を慕う穏健派が黙っていない。よって夕日は『指切り』の犯行に見せかけて空を殺したんじゃないか……と俺は睨んでいる訳だ」

 どうだろう? 俺は深夜の見方に疑問を感じた。

 夕日は冷酷そうでいて実際冷酷な時もあるが身内にはかなり甘いところがある。裏切ったとは言え、一度幹部にした人間なら命までは取らないんじゃないだろうか? 本当に夕日が殺したのかどうか、俺には若干の疑問が残る。

 「……さて。俺の話はここまでだ。何も知らずに閉じ込められては可哀想だから、話せることは話してやった」深夜はタバコの火をもみ消しながら言う。「もうすぐ『サテライト』の仲間が車を持って来る。おまえはそこに乗せられて、『サテライト』の用意した牢屋で残りの人生を送ってもらう」

 「……なんで俺がそんな目に合わなくちゃいけないんだ? そんなことをしておまえに何のメリットがある?」

 「おまえという人間が害悪だからだ、殺人鬼」深夜は心底軽蔑した目を俺にくれた。「政府にとっても中二病患者にとっても、もっとも害悪な存在は、おまえのように症状を悪用する中二病患者だ。どうせ寿命見て殺す相手を選んでたんだろ? おまえのような存在がいるから俺達は世間に認められない。そんな人間を『サテライト』は野放しにしない」

 「だからって生涯監禁かよ。殺された方がまだマシだ」

 「本気でそうして欲しいなら人思いに殺っても良い。いつでも殺ってやる。……が、実際はそうならないことは、他でもないおまえ自身が分かってるんじゃないのか?」

 確かに鏡で見る俺の頭上には六十数年後の数値が浮遊している。ということは、少なくとも俺はこいつには殺されないということだ。

 「おまえの言う通り、俺はおまえのことが嫌いだよ」深夜は忌まわし気に俺から視線を反らした。「だが弟と思わない訳じゃない。監禁はするが拷問して苦しめるつもりは一切ない。おまえが暴れなけりゃあ、まともな食べ物とそれなりの暇つぶしは用意してやる。捕まって死刑囚になるのと比べりゃ幾ばくかマシな待遇だ」

 俺は考える。どうやってこの場を切り抜ける? 

 長話をして時間を稼いで体力の回復を待ってはいるが、未だに立ち上がることもままならない状態が続いている。深夜の仲間がやって来るまでに、この状況を逆転する為の体力を蓄えるのはどう考えても無理だ。

 きっとどこかでチャンスはあると自分に言い聞かせてはいるが、内心で俺は絶望を感じ始めている。そして絶望は受容の前段階。心のどこかで、俺は深夜に負けるのならしょうがないと思いつつもあった。

 やがて自動車の音がした。待ちくたびれたように深夜が顔を上げると、さっきまで深夜の乗っていた車が別の誰かに運転されて、この路地裏に侵入して来た。

 その時だった。

 その自動車は空を飛んだ。何がなんだか分からないし信じられないが、本当にそれは俺の目の前で起こっていた。

 突如として浮遊した自動車は、空中で前転し上下逆になると、中で悲鳴を上げる運転手をお構いなしに、逆向きのまま地面に叩き付けられた。

 轟音と衝撃。

 俺と深夜はあっけに取られていた。呆然とした顔を見合わせるこの瞬間だけは、互いが今敵対しあっているということを忘れ、ただの兄弟に戻っていたと思う。

 呆然とする俺達の前に、二人の小さな人影が姿を現す。

 それは時川兄弟の長子と末弟にして、肉体年齢小学五年生コンビである、夕日と正午の姿だった。

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