第131話 白いベルト
上半身を起こしたツツジに近づくミナミ。
ゆっくりとひざを折り、その上半身に抱き着く。
「……おめでとう、ミナミ」
「ツツジ、ツツジのおかげよ……」
「あなたの実力よ。今回はね。次は負けないわ」
「うん、楽しかったわ。また、次もいい試合しよう」
二人はきつく抱きしめ合って、讃え合った。
その後、リングアナが真白いジュニアチャンピオンベルトをミナミの腰に巻く。
「こんなに大きいんだ」
ぶかぶかのベルト。
はにかむミナミ。
そのミナミの手を高々と持ち上げたのはツツジだった。
「ねえ、ミナミ。私、次を考えたんだ」
「あら、なんとなくわかっちゃった」
「ふふふ、私、もう四年目だし、先にヘヴィ級に移って赤いベルトを巻いてミナミを迎え討つことにする」
ジュニア級は五年目までと定義されていることからも、ヘヴィ級に移っても違和感は無いタイミングだ。
「やっぱりか……じゃあ、私も早く移らなきゃなきゃね」
「まだ二年目なのに?」
「あら、年齢は同い年でしょ」
「確かに」
二人は笑いながら観客に礼をすると、手をつなぎながら花道を引き揚げる。
その時、ミナミはスタッフ席に大沢がいないことに気が付いた。
『試合が終わったら、またここに来てくれるか?』
確か、試合前にSJW運営控室で大沢はそう言っていた。
多分、大沢が待っている。
(やるべきことは全部やった。ベルトも手に入れた。これで自信をもって……)
ミナミは手に力を入れる。
(自分の正直な気持ちを伝えられる。拒絶されるかもしれない。実は、やはりアラタさんと付き合っているかもしれない。それでもいい。今日が最後だとしても、今言わないといけないと思う)
花道から通路に戻ると、ミナミはツツジの両手を掴んだ。
「ごめん、今から行くところがあるの。休憩時間、10分くらいしかないと思うし」
ツツジはにっこり笑う。
「わかってるわ。自信もっていってらっしゃい」
「ありがとう、じゃあ、またね」
走り去っていくミナミ。
ツツジは苦笑いしながら手を振る。
(あーあ。もし帰ってこなかったらこの後の試合後インタビューどうしよう。敗者の私一人で受けろって言うのかしら?……拷問じゃん。私も、ばっくれようかしら……)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます