第130話 決着

 片膝をついて立ち上がろうとするツツジ。

 先にミナミが走り込む。


「うおおおおー」


 ツツジの片膝を左足で踏み台に、そして右足で顔面を貫く超至近距離の膝蹴り。

 踏み台を使うことで、硬い膝に全体重を乗せて高速でぶつける。

 F=mΔv/Δt

 シンプルだけどm、Δv、1/Δtのすべてを最大化させるおそるべき技、シャイニングウィザードだ。


 ミナミはさらに花道にでると、全力で助走をつけてリングに向かって走り込んだ。


「くらえ!」


 花道からトップロープに飛び乗り、そのままのスピードを使って強烈なミサイルキックをツツジに打ち込む。

 ツツジは二回転して仰向けにダウン。


(私の右足、今度はしっかり踏ん張ってね)


 ミナミはワンステップでコーナートップロープに登った。

 そして、天を指さす。


「いくぞー!」


 ツツジはローリングギロチンドロップを警戒し、回避の準備に入る。


(ローリングギロチンなら、一度リング方向に向きを直す時間が必要なはず。その隙に避けることができるはずだ)


 しかし、ミナミはリングに体を向けることなく、そのまま一気にバク宙の形で飛び出した。


(……まさか、ムーンサルト?いや、違う。これは……ミナミの進化系?……)


 ツツジは為す術なくそれを見上げた。


 ミナミは、バク転の形で離陸したあと、180度横に回転し空中で前を向く。そこから1回転超前転することで速度をつける。

 そしてツツジの上半身に、自分の上半身のプレスを与える。


 秘密に開発していた新技、フェニックススプラッシュだった。

 しかし、そこでホールドにはいかない。


「ツツジ、これが私の全力よ」


 ミナミはツツジを起こし上げると、バックに回る。

 決め技はジャパニーズオーシャンスープレックス。

 大きく速度が速い回転弧。

 両腕を複雑にロックしたインパクト。

 つま先までピンと伸びたブリッジでフォールする。


 カウントが入る。


「1……2……」


その声を聴きながら、ツツジはゆっくり目を閉じた。


(……こんなコンビネーションを身に着けていたんだね。やっぱり、ミナミはすごいよ。さすが、私のライバルね……)


「……3!」


 レフェリーがカウント3を宣言する。

 会場が静まり返った。


 そして、一瞬の時を経て。


「「うおおおおおおお」」


 大歓声に包まれる。


 オーロラビジョンには、ミナミの勝利が宣言されていた。


 ミナミは大沢の方を見る。

 大沢は、うんと頷く。


(ついに、やったわ……)


 ミナミは天井を見上げた。

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