第129話 終盤戦

 ミナミの耳に、5万人の大歓声が戻ってきた。

 意識がはっきりしてきた証拠だ。


(あぶない、気を失っていた。負けるとこだった?)

 ミナミはオーロラビジョンに視線を向ける。

 今ので点数はツツジに大きく引き離された。


(でも……3カウントは取られなかった。大沢さんの応援のおかげです)

 ミナミは大沢に視線を移す。

 大沢は両手のこぶしを握り締めて頷いている。


(まだ……やれます)

 でも、体が動かない。足が重い。


 ツツジがミナミを無理やり立ち上がらせる。

 バックに回られて腕を取られる。

 逆一本背負い。

 ツツジの十八番だ。


(やらせない。背負い系の破り方は身についているわ)

 ミナミは、思いっきり自ら飛び上がることで半回転多く回り、足から着地し難を逃れる。


「ほう、まだそこまで動くの?やるわね」

「……まだまだ、これからよ」


 ミナミはニコッと笑う。

 ツツジも笑みを返すと、猛攻に出た。


 小内刈り、背負い、大外刈り、払い腰。

 容赦なく柔道技で攻め立てる。

 ミナミはなんとか避けるだけで精一杯。


(……でも、足のダメージは回復してきている)


 ミナミは自分の体の状態把握に努める。

 足の踏ん張りが戻ってきている。

 一方で、上半身のダメージは深刻だ。

 でも……


(あと一発なら、ツツジの必殺技を受けられる。そこで、一気に巻き返す)


 そして、その時が来た。


「これが私のとっておきよ」


 ツツジはミナミの背後でミナミの両腕を担ぐ。

 逆一本背負いの両腕背負いバージョン。

 いうなれば、逆二本背負いだ。


 タイガースープレックスやジャパニーズオーシャンスープレックスと同様に、両腕をロックしているので受け身を取りにくい。


(まだ、こんな技を隠していたなんて……なんとか、耐えろ!私!)


 ミナミは集中力を高める。

 頭は揺らすな。

 首から肩に緊張感を。

 そして、インパクトの瞬間に首を上へ持ち上げるんだ。

 これで少しでも速度緩和し時間を稼ぐ。


「ぐがっ」


 背中をマットに打ち付けられる。

 カウントが入る。


「1……2……」


 ツツジの新技を食らい、もう無理だろうと誰もが思ったそのとき……

 カウント2で体をひねらせ逃れる。


(やった。覚悟を決めていたおかげで意識を保てたのは大きい。体に鞭打ってでも、ここで動くべきだ)


 ミナミは雄たけびを上げながら、ツツジよりも先に立ち上がった。


「「うおー---」」

 観客は驚き、大歓声を上げる。

 しかし、一番驚いていたのは、技を放ったツツジだった。

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