第126話 序盤戦

「青コーナー、SJW所属、ミナミ入場です」

 リングアナの紹介に続く入場曲で、会場のボルテージが一気に上がる。


「さあ、楽しんできなさい」

 アラタが促す。


「はい、行ってきます」

 ミナミは晴れ晴れとした表情。

 5万人の観客が迎える。

 長い花道を歩くミナミ。


(ありがとうございます。アラタさん、大沢さん。自分が楽しめないようじゃ、観客に魅力を伝えられませんもんね。私、思いっきり楽しんできます)


 リングに入り、太々しく右手をあげる。

 サザンのときと同じ仕草に、歓声は一段と増す。


「赤コーナー、DIVA所属、ツツジ入場です」

 花道を歩いてくるツツジ。

 DIVAトップタッグの一端を担う自信と責任のオーラを纏っている。


「只今より、全日本女子プロレスリング統一ジュニアチャンピオンベルト、タイトルマッチを開催致します」


 リング中央で二人は握手する。

 場内が静まり、緊張感が増す。


「ミナミ、目が腫れてるじゃん。でも、昨日よりいい雰囲気。いつものミナミに戻った?」

「うん、心配かけたわね。でも、もう大丈夫よ」

「良かった。であれば、こちらも心して掛からないとね」


 そして、運命のゴングが鳴る。

 ずっと一緒に練習していた二人だ。圧倒的な絡み合いを見せる。


「うおー、さすが決勝戦」

「この二人だからこその動きだ」

 観客も盛り上がる。


 ミナミがツツジをヘッドロックしながら囁く。


「楽しいね、ツツジ」

「まだまだこんなもんじゃないよ」

 ツツジはミナミの腰を掴むと強引に引っこ抜く。

 柔道出身のつつじならではの裏投だ。


「グエッ」

 ミナミの両肩がマットに叩きつけられる。

 そこからは関節技で押される。

 何とか逃れると、ツツジをロープに振る。


(以前よりも高い打点で……)

 ミナミは走り込んでドロップキック。


(インパクトの瞬間に最後の伸び。そして力を込める)

 これによって、インパクト速度と硬さを上げる。

 アラタから叩き込まれた技のキレ。


 吹っ飛んだツツジは、たまらずにリングの外へエスケープする。


(逃がさないわよ)

 ミナミはコーナートップロープで観客に向かって手を叩く。

 観客は大喜びで手拍子に乗る。


(行くわよ!)


 なんと、トップロープから場外に向かって飛び出し、前転しながらツツジに体当たり。プランチャ・コンヒーロだ。

 高い落差による速度と回転によるモーメントが破壊力を上げ、ツツジはたまらず場外でダウン。


(久我さんから学んだ空中殺法よ)


 序盤、ミナミが優位に立った。




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