第二十四章 チャンピオンシップ決勝 <入社4年目冬>

第124話 張り詰めた気持ち

 翌日、日曜日。

 ミナミはドームを見上げていた。


 晴天の青空。

 大きく深呼吸。息が白い。


 今日で、全てが決まる。

 トーナメントも、AI改革も、そして多分、自分の恋心の結末も。


(さあ、行くわよ)


 意を決して、ドームに足を踏み入れる。


 最初に向かったのはSJW運営控室だった。

 予想通り、大沢はそこで仕事をしていた。


「昨日はアドバイスをありがとうございました。今日、優勝目指して頑張ります」


 大沢はPCから目を離すと、ミナミに視線を向ける。


「ああ、楽しみにしている。今のミナミなら、ツツジにも引けは取らないと信じている。自分のすべてを開放して、全力で頑張ってこい

「はい。そして、この大会を必ず成功させます」

 ミナミは強い決意を示す。


 大沢は、立ち上がるとミナミの頭をくしゃっと撫でた。


「ずいぶん張り詰めているな。大会を成功させるというプレッシャーが強すぎるんじゃないか?」

「え!?」


 昨日、ツツジにも張り詰めていると指摘された。

 やはり、どこかに無理が出ているのだろう。


「大会なんかいつでもリベンジできる。そんなことより、待ち望んだツツジとの決勝戦だろ?ミナミが悔いのないように楽しんでこい」

「あ、ありがとうございます。はい。がんばります」


 そう答えて、笑顔を見せ、部屋を出るミナミ。

 やはり、その表情はまだ固い。

 大沢は心配そうな表情でもう一言声をかける。


「……ミナミ、試合が終わったら、またここに来てくれるか?」

「は、はい。わかりました。では後ほど」

 ミナミはそう答えると選手控え室に向かった。


(……大沢さん、いつもよりも難しい表情……やはり……いや、今は考えない)


 見送った後、大沢はどこかへ電話をかけるのだった。


 ドーム内ではトーナメント最終日で5万人の超満員。

 メイン、セミメインに繋がる試合も、エキシビジョンではあるがAIが提案した夢のカードが連続する。

 TV中継も行われ、異常な盛り上がりを見せていた。


 通路で出番を待つミナミは、ここに来て、やはり指摘されたように自分が張り詰めていることを自覚し始めていた。


(決勝戦の緊張だけではないわ。やはり……この試合が終わったら、大沢さんとアラタさんのこと、約束のこと。向き合わなければいけないから。そのためにもやはり、良い試合をしなければいけないというプレッシャーが大きいんだわ……)


 ミナミはふと不安げな表情で身震いする。


「ミナミちゃん……」


 そこに、現れたのはアラタだった。

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