第118話 二人の夢

「……それって、三角関係?」

「……全部本当の話ならね……」


 大沢とアラタが恋人で、理念実現の約束をしていると仮定すると、さまざまな事象が説明しやすくなることは事実だ。


 大沢が理想にこだわる理由。

 ZWWで出世した理由。

 アラタが東大の助手になったこと。

 そして、ミナミの専属パートナーになったこと。


「そうだとしたら、ミナミは大沢さんに不信感を抱く?」

「……ちょっと違うかな」

「じゃあ、代理で夢を実現させようとしているアラタさんに憤慨?」

「……それもちょっと……」


 ガン!!


 タマちゃんがビールジョッキをテーブルに叩きつける。

 びくっとするミナミ。

 周りの客がこっちを見るけど構いはしない。

 あの優しいタマちゃんが、今まで見たことがないような怖い顔で睨む。


「なんでミナミはいつもお人好しなの?そこは怒るところでしょ?」


 それを聞いて、ミナミは悲しそうに首を振った。


「ううん、そうじゃないの。私が、壊しちゃったんじゃないかって」

「……何を?」

「大沢さんとアラタさんの夢を……」

「え?……」

「二人で実現しようとして夢を、私、横から踏みにじったのかもって……」


 タマちゃんは一瞬絶句した。


「……二人はあなたを利用しようとしたのかもしれないのよ?」

「違うわ。私は自分の夢を押し付けてた。大沢さんはずっとそれを受け入れてくれていた。ずっとサポートしてくれていた。本当は自分たちの夢だったかもしれないのに」


 それを聞いて、タマちゃんの頭の片隅に一つの可能性がよぎる。


(……あえて、自分たちの夢を、その設計図を、ミナミに授けた、という可能性もあるかもしれないわね……)


「知らない間に大好きな二人の可能性を奪ったのだとしたら……」


 タマちゃんは片腕でミナミを包み込み、慰めた。


「大丈夫。例え二人が付き合っていて二人の夢だったとしても、嫌なら大沢さんがアラタさんをトレーナーに紹介したりしないわ。大丈夫。あなたは間違っていない」


(この娘は、常に人のことばかり考えて……)


 ミナミは徐々に静かにタマちゃんの腕の中で縮こまる。


「落ち着いてじっくり考えなさい。あなたの夢は誰のものか。夢を叶えた後どうするのか。自分の気持ちをどうしたいのか」


 タマちゃんはミナミの頭を撫でる。


「時間をかけていいの。あの二人が本当に付き合っているかもまだわからないでしょ?多分、橋本君はまだまだ待ってくれると思うわ」

「そうね。ありがとう」


 タマちゃんはミナミを強く抱きしめた。

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