第116話 アラタの関係
「専属トレーナーはアラタさんだよね?」
それを聞いて、ミナミは慌てる。
「ちょ、何で知ってるんですか?まだ内緒だから、記事にしないでくださいよ?」
「それは残念。7年ぶり現場復帰となれば雑誌も売れるネタになるんだけどね」
「すみませんね、私のネタは雑誌売り上げに貢献できなくて……」
「ははは、いや、そういう意味じゃないよ」
烏山の目は怪しい光を宿している。
「さっきの『技の魅力を伝えるプロレスを作る』っていう理念って、大沢さんが昔から掲げている夢だよね」
「そうですよ」
大学一年のときにZWWで大沢さんから、その理念を持つ新しい団体ができるからそっちにおいでと誘われた。その理念はミナミが成し遂げたいものと同じだった。だから、ミナミは同じ夢を目指す大沢に憧れを持った。
烏山は声のトーンを落とす。
「あの理念って、ZWW時代の企画部長の大沢さんと当時トップだったアラタさんとが付き合っていて、その二人の約束だったって噂があるんだよね」
「え!?」
ミナミの心臓が大きく跳ねた。
アラタさんと……付き合ってた?
「当時、アラタさんが引退したことでその噂は途切れたけど、アラタさんが今になって自分の替わりに約束を実現するために尽力しているミナミちゃんの専属トレーナーになった。大沢さんの紹介でしょ?偶然だと思う?」
「……知らないです。そんな話、聞いたこともないわ」
ミナミはなんとか平然を装う。
烏山は追及の手を緩めなかった。
「じゃあ、こんな話、知ってる?大沢さんは、東大教養学部のスポーツ科学専攻だった。そして鳴物入りでZWWに就職。素早い出世で企画部長になった。東大卒とはいえ出世が早いのは、誰か後ろ盾があったからじゃないかってね」
まさか、大沢さんも東大卒だなんて。
でも、確かに教養が深いと感じることは今までもあった。
そして……
(スポーツ科学専攻って、もしかして……)
「アラタさんは同じ学部でスポーツ科学のゼミの助手をしている。これも偶然じゃないだろう。ここまで繋がりが深い二人だ。やはり当時から、そして今も、付き合っているんじゃないかな?」
烏山はミナミの反応を伺う。
ここで言質が取れたら元トップレスラーの大スクープだ。
しかし、ミナミの反応は初耳で驚いて、顔面蒼白になっているが何かを知っていた素ぶりは見せない。
(そんな……私……)
あまりにもショックを受けているミナミを見て、烏山はバツ悪そうにそそくさと帰っていった。
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