第109話 ケヤキ並木

「というわけで、また今回もご協力をお願い!」


 橋本の目の前で両手を合わせてお願いするミナミ。


「ね、今日は私が奢るから」

「……まったく。次から次へと。ミナミといると飽きることがないよな」

「でしょ?楽しいでしょ?」

「まあ、継続した営業収入にはなるから助かってるさ。もう少し早めに言ってくれたらもっと助かるけどな」


 苦笑する橋本。


「無理させちゃってるもんね。本当にありがとう」


 二人はビールで乾杯する。


「また東京ドーム?」

「そう。クリスマスの2DAYS」

「わかったよ。予定空けておくよ」

「あ……もしかして……」


 ミナミは食べる手を一瞬止める。


「彼女と予定とか、大丈夫?」

「……」


 橋本はまじまじとミナミを見つめる。

 そこに、邪気が全くないことは長い付き合いでわかっている。


「そんなのないよ。心配すんな」

「よかった。あ、いや、そういう意味じゃないわよ?」

「なんだそれ。そういうミナミはどうなんだよ」

「私?今はトーナメント一筋。絶対に興行としても成功させる。そして、私も優勝する」

「応援するよ」

「ありがとう。関係者用の特等席用意しておくわね」


 こうして、お酒が進んでいき、ほろ酔いの二人。

 散歩しようと公園通りを北上し、人もまばらとなったケヤキ並木をブラブラと歩く。


「え?ついに、覆面外すのか?」

「まだ決定じゃないけど、考えておけって」

「そっか。で、ミナミはどうしたい?」

「……不安なの」


 歩を緩めるミナミ。


「覆面でやってきて、今更素顔になって受け入れられるのかしら……ってね」

「……」

「でも、私にはあこがれの選手がいてね。とっても素敵でかっこいいの。凛とした表情で相手に立ち向かっていた」


 ミナミの表情はすがすがしい。


「素顔でやりたいんだな」

「……そうかもね」

「覆面でも素顔でも、ミナミはミナミのやりたいプロレスをやればいい。それがおれたちを勇気づけてくれる」

「……ありがとう。前も同じように言ってくれたよね。嬉しかったんだよ」


 ミナミは微笑んだ。

 そのミナミの手をそっと取る橋本。


「ミナミ。君が好きだ」

「え!?」

「おれは、ミナミが好きだ」


 ミナミは突然のことで真っ赤になる。


「クリスマス大会が終わったら答えを聞かせてほしい」

「……」


 まさか、いきなり告白されるなんて。

 心臓が二倍速に跳ね上がる。


(でも……知っていた。橋本君はずっと見守ってくれていたもの……)


「ありがとう。真剣に考えるね」


 ミナミは、橋本の手をそっと握り返した。

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