第二十一章 卒業 <入社4年目秋>

第108話 新タイトル

 大沢が特訓の様子を見に来た。


「あら、大沢ちゃんだわ」


(さすがZWW元トップ。当時の企画部長もちゃん付なんだ……)


 大沢は一言二言アラタと会話すると、ミナミの方を向く。


「全日本チャンピオン大会の提案にDIVAが乗ってきた。交渉を始めるぞ」

「本当ですか?」


 ここしばらく大沢とミナミが構想を練っていた企画。


『全日本女子プロレスリング統一チャンピオンベルト大会』

 

 前回と同様4団体対抗戦ではあるが単なるトライアル対抗戦ではない。

 シングルの頂点を決めるトーナメント戦。

 決勝戦で新設のチャンピオンベルトをかけて争う4団体公式タイトルマッチだ。


(4団体が一つの目標に向けて切磋琢磨する。究極系にはまだ遠いけど……)


 ミナミはガッツポーズを見せる。


「あと、おれの独断でジュニア級もベルトを作ろうと提案しておいた」

「ジュニア級?」

「デビュー五年目までを対象としている。もちろん、ミナミも対象だ。AIシステムが選べば、だがな」

「……私も?」


 前回の対抗戦は出場できずに涙した。


(今回は……出場のチャンスがあるかも?)


「ただし、エントリーする前に二つ条件がある」

「条件?」


 大沢が条件と言ってきたということは、それなりに面倒くさいことを言われるに決まっている。


「一つ目は、マスクを脱ぐことを考えること」

「ええ!?マスクを?」

「結論はどちらでも構わないが、そろそろ今後のレスラー像を真剣に考えるタイミングだと思う」

「……観客に受け入れられるか不安です」


 最初は内心嫌がってた覆面ヒールだったが、観客も自分も慣れてしまっている。不安になるのも当然だ。


「今のミナミの実力なら問題ないはずだ。そしてもうひとつ。次の長岡大会の前に、実家に帰ること」

「え?」


(実家の話はほとんどしたことがないのに……)


 両親の反対を無視して練習生になってからの4年間、まともに連絡していない。


「トーナメント直前のタイミングだ。ミナミは実力でビジネスとプロレスの両立を実現している。そろそろきちんと理解してもらえるはずだろ。それが今回の条件だ」



 そして、大沢とミナミは各団体との交渉を重ね、10月中旬にようやく合意。


 各団体それぞれからヘビー級8名ずつ。

 12月からトーナメント開始。

 クリスマスのドーム大会にて準決勝、決勝を争う。


 ジュニア級は各団体2名ずつ。

 準決勝、決勝はヘビー級の前のセミメインイベントとして行う。


 出場選手はAIが選任することとなった。

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