第二十二章 チャンピオンシップ予選 <入社4年目冬>

第114話 センス

 大反響を呼んだ長岡でのマスク外しはSNSでも大騒ぎになっていた。

 地元の友人やスキー仲間からメールやチャットが入ってくる。

 プロレスをやっていることは言ってなかったので、みんな驚いたようだ。


(ごめんね。事前に言えることじゃなかったから……次の機会に見に来てね) 


 そう返事を返しながら東京に戻る。

 すると、アラタが社長室を訪れていて、ミナミも呼び出された。


「水着と曲を決めないといけないわ」

「あ!」


 水着とはリングコスチュームのことだ。


(ヒールだったからTシャツとショートデニムに慣れちゃっていたわ……)


「水着はおれが手配しよう」


 大沢の提案を、アラタが慌てて否定する。


「ダメ。大沢ちゃんのセンスは最悪なんだから。ミナミちゃんの水着は私が選ぶわ」


 それを聞いて大沢は寂しそうに別の提案をする。


「じゃあ、曲はおれが……」

「それもダメ!」

「ええ?」


 そのやりとりを聞いて、ぷっと噴き出すミナミ。


「私の使っていた水着屋さんを紹介するわ。曲は……そうね。私のオリジナル曲とか使ってみる?権利関係も問題ないわよ」

「え……いいんですか?そこまでしてもらって……」

「もちろん。あなたは私の弟子ですからね。どっちにしても、大沢ちゃんには任せちゃダメだからね」


 確かに大沢のセンス問題には心当たりがある。

 ミナミは提案をありがたく受け入れた。



「それと、チャンピオンシップ出場選手のAI選任結果がWEBで発表されてるぞ」

 それを聞いて、二人は慌てて社長室のPCをジャックする。


 ヘビー級はアキラ、サクラ、イズミをはじめとした主要メンバーから中堅組が選任された。


「ジュニアは?どうなってるの?」

 ミナミより、アラタの方がドキドキしながらPCをいじる。


「……あった」

「本当ですか?」


 ミナミも画面を覗き見る。

 そこには確かに『サザン』の名前が光っていた。


「おめでとう。これで、トーナメント出場は決まった。各団体には『サザン』ではなく、素顔の『ミナミ』として出場できるように根回しをしておくぞ」

「はい、よろしくお願いします」

 ミナミはごくりと唾を飲み、真剣な表情で頷いた。


 そして、もう一度出場選手を見る。


(ツツジもジュニア出場選手の一人に選ばれているわね)


 二人が順当に勝ち上がると、決勝戦で合間見えることになる。

 ミナミは決意を固め、ツツジにチャットした。


『今度こそ、決勝で戦って高尾山登ろうね』

『うん、今度こそ!でも、高尾山は寒いからビッグ・オーにしよう』

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