第113話 卒業証書

 聞きなれたヘビメタ調のオリジナルヒールチーム入場曲が流れる。

 サクラとイズミが先に入場した。


 続いて、ポップな入場ソングが流れる。


「じゃあ、ミナミちゃん。行きましょうか」

「はい。今日はよろしくお願いします」


 こうして、アキラ、サザン組もリングに上がった。


 ゴングが鳴る。


 トップレベルとレジェントレベルの中に、一人だけジュニアが混ざっているのだから、集中砲火を受けるのは当然ミナミだった。


(でも、簡単にはやられない)


 ミナミはアラタとの特訓の成果を引き出す。

 新技ではない。

 技のキレをはじめとした、力学的な根拠を持った完成度だ。


 軽量級の重量の不利をスピードとキレで利点に変える。

 まさに、F=mΔv/t。

 mがなくても、Δv/tで勝負できるはず。


 ミナミはスタミナの続く限り動き回った。


 それでも、やはり相手は長年の経験と実績を持つ。

 理論を越えた強引な突破力を発揮し追い詰める。

 そしてサクラの凶器攻撃。


「避けて!」


 アキラが声を上げる。

 これを食らったら本当にやばい。


 そのとき、ミナミは左手を自分の喉にあてていた。

 直前に飲み込んだカプセルを咬む。

 

 掟破りの毒霧噴射!


 ピンク色の毒霧を受けてサクラは一瞬ひるむ。

 その隙をついて、両腕をまっすぐに固め後ろに投げる。

 タイガースープレックスだ。


(これは新技じゃないもんね)


 そして、アキラにタッチする。


 アキラは正統派の技の連続でヒール攻撃を封印していく。

 そして、ついにサクラをリング中央でダウンさせた。


 やばいと思ったイズミがすかさずカットに入る。

 アキラがそれに応戦。


 そして、アキラはミナミに目で合図を送った。


 ミナミは、その意図を受け取ってコーナートップロープに一瞬で飛び乗る。

 そこから、一気に前転しながら飛び出した。


 デビュー前からヒールチームリーダーとして自分を引っ張ってくれたサクラに対する、感謝の気持ちを込めたローリングギロチンドロップだ。


 ミナミはインパクトの瞬間に体を硬直させ、速さと硬さを上げる。

 これがサクラにクリーンヒット。


 そこで、ゴングが鳴る。

 60分の試合が終了した。


「……やるじゃねえか。ゴングが無かったら厳しかったぜ」


 サクラが、ミナミの手を掴む。

 そして、高らかとその手を挙げる。


「おれからの卒業証書だ。胸張れよ」


 サクラは、ミナミのマスクを解いていく。

 アキラもイズミもその様子を嬉しそうに見守った。


 マスクを外したミナミの素顔は、涙でぐちゃぐちゃになっていた。

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