第111話 決意

 翌日。

 11月最終戦となるアオーレ長岡大会。


 ミナミの故郷。

 そしてミナミがZWW時代のアラタの試合を見てプロレスラーになる決意をした場所だ。


 SJWとしては初の開催となる。

 メイン試合には、なんとミナミが出場する。


 ミナミにとって凱旋ではあるが、業界ではもはや公知の事実になりつつある覆面ヒールサザンの正体でも、世間一般では未だにベールに隠れている。

 3千人の満員の観客も、そのメインイベントであるタッグ戦の一角を、地元出身のミナミが担っているとは知らなかった。


「AIが決めたマッチングだよ。まあ、ミナミの地元が長岡で、初の凱旋だという情報をAIに追加で入れといたんだけどね」


 お茶目なことを言うのは営業の北沢だ。


(まったくもう……完全公平公正だって言ってるのに……)


 でも、悪い気はしない。


 相手はサクラとイズミのヒール最強コンビ。

 そして、ミナミは初めてのアキラとの異色コンビを組むことになっていた。


 試合前。

 会場に向かう通路に大沢がやってくる。


「大沢さん。いろいろとありがとうございました。実家で、気付いたこと多かったです。そして、ずっと父や母とも連絡を取ってくださったんですね。本当にありがとうございます」


 大沢の目の様子はサングラスでわからない。

 でも髪をかき上げるしぐさは照れている証拠だろう。


「ま、まあ。ミナミががんばった成果だから。まあ、とにかくがんばれ」

「大沢さん。私、絶対に大沢さんの期待に応えます」

「お、おう」

「まずは、ジュニアトーナメントの選手に選ばれて、そして、頂点に立ちます。大沢さんに、ベルトをプレゼントします」


 それを聞いて、大沢はやっと表情を崩した。


「そうだ。それでいい。高い目標を決めて、それにチャレンジする。それがミナミの魅力だ。無謀なことも多いけどな」

「ちょ、ちょっと待ってください。そこ、落とさなくてもいいじゃないですか」


 ミナミは思いっきりのふくれっ面を大沢にぶつけた。

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