第106話 プロレス力学
「研究室に入ってから、プロレスでももっと科学的知識を積極的に導入すべきって考え始めたの」
アラタは大学教授の助手である片鱗を見せ始める。
「例えば、技のキレが重要っていうけど、力学的に説明できる?」
「え?え?えっと……私、物理は専攻じゃなくて……」
「ミナミちゃんは東大卒だからすぐ思い出すわ。私なんか高卒だから全部ゼロから勉強しなおしたんだからね」
その勤勉さに感心するミナミ。
アラタは、壁にかかっている白板にマジックで公式を書く。
『力の総量は力積=運動量
FΔt=mΔv(mは質量、Δvは速度変化量、Δtは時間変化量)』
「難しい積分とか無視すると、Fを衝撃力として……」
『F=mΔv/Δt』
「と書けるわけ。簡単でしょ?」
「あわわ……」
ミナミは慌てて頭を回転。
「Fを大きくすることが、技のキレを良くするということですか?」
「そう。ぶっちゃけ衝撃力の大きさが技のキレなのよ」
「そのためには……質量を上げて、スピードを上げて、衝撃(インパクト)時間を短く……できればいいのでしょうか?」
するとアラタはにっこりと笑う。
「スピードとインパクトは練習詰めばできるわ。やってみようか」
アラタはミナミの背後に回り、ジャーマンスープレックスを打つ。
「ぐえっ」
「次は別の技よ。しっかり首と肩で受け身を取りなさい」
今度は後ろ手に両手を縛られたような固め方をされ、そのままスープレックスで投げられた。ジャーマンとは比べようもない衝撃がミナミを襲う。
「うがっ」
「どう?わかった?」
ニコニコするアラタ。
「……多分、腰ではなくて腕を支点に投げられるから回転半径が大きくなって速度が上がったんだと思います」
「あらまあ、よくわかったわね」
「あと、腕による受け身が取れないので、速度も殺せずインパクト時間も短いです」
「きゃー、さすが東大生。やればできるじゃない」
べた褒めで喜ぶアラタ。
(私……遊ばれているのかしら?でも……)
「ありがとうございます。コツがわかりました」
「とにかくインパクト時の速度と時間よ。インパクトの瞬間だけ力籠めたり加速したりもありね。キレだけでなく見栄えも良くなるわ」
「ありがとうございます。あ、あの……」
ミナミはついでに聞いてみる。
「ところで、今の技は?」
「あれはジャパニーズオーシャンスープレックスよ。教えてほしかったら体で覚えなさいね」
「あ、ち、ちょっと待って……うげっ」
こうして、また投げられるミナミだった。
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