第97話 手ごたえ

 乱戦を経て、ミナミは場外に叩き出される。


 クーガーはリング中央で観客に対しアイドルらしいかわいいアピール。

 その後真剣な表情でリング外のミナミを睨む。


 リング上から走り込み、トップロープとセカンドロープの間を頭から飛び出し、そのままミナミに正面から突っ込んで体当たりする。


「グエッ」


 トペ・スイシーダだ。

 アイドルキャラなのに洗練されていて、ラフプレイも華麗にこなす。

 会場の盛り上がりがすごい。


 ミナミは場外で大の字。


(これはきつい……それにしても試合運びうまい)


 クーガーがミナミを無理やりリングに戻し、トップロープからムーンサルトプレス。


(これはやばい)


 ミナミは横転し難を逃れる。

 自爆したクーガーを捕まえると、瞬時に得意のジャーマンスープレックス。

 続けてタイガースープレックス。

 流石にクーガーにも効いている。


 そしてワンステップでトップロープに飛び乗る。

 これも脚力を鍛え上げたミナミの特徴だ。

 クーガーは仰向けになりながら、驚きの表情でその仕草を見る。


「いくぞー」


 イズミのマネである。

 敵地でも観客が盛り上がる。


 ミナミは高く飛んだ。

 ギロチンドロップだ。


 大きな衝撃を与えてそのまま抑え込む。

 カウントは2。


(もう一度、次はローリング出すか)


 もう一度コーナーポストめがけて走るミナミ。

 その視線の端に、ちらりとクーガーの瞳が映り込んだ。


 ミナミの背中に冷汗が走る。


(闘志を失っていない。いや、むしろ、やり返す決意を固めた瞳だ)


 その瞬間……


「カーン、カーン、カーン」


 試合終了のゴングが鳴り響いた。


 スクリーンにAIのスコアリングが表示される。

 総合得点は、クーガーがミナミを5点上回る。

 クーガーの判定勝ちだった。



「楽しかったわね。それと、AIシステムも勉強になったわ。ありがとう。また来てね」

「久我さん、こちらこそありがとうございました。私も本当に勉強になりました」

「次こそは、リングで歌おうね」

「そ、それはちょっと……あはは」


 そして帰路につくミナミ。

 予想をはるかに超える経験だった。

 

 やはり、クーガーの観客を盛り上げる技術はすごい。

 SJWに持ち帰り見習うべき部分も多かった。

 そして、体力も技術も申し分なかった。

 アイドル出身だからといって侮れない。

 

 最後は完全にゴングに救われた。

 あのまま行ってたら確実に返されて大きなダメージを受けていただろう。


(初のメイン試合、何とかこなせたかしら……)


 手ごたえと不安を同時に感じるミナミだった。

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