第十八章 初シングルメイン <入社4年目夏>

第95話 横浜武道館

 6月中旬。


 ミナミは横浜の関内に到着する。

 そこから歩いて数分。

 横浜BUNTAI(元横浜文体)を横目にもう少し進む。

 ガルパのホームスタジアム、横浜武道館だ。


『AIの調整はばっちり。うちのメンバーも現地入りさせたから安心して。無理せずに頑張れよ』


 橋本からのチャットに目を細めるミナミ。


(ありがとう。本当に、安心できるわ)


 ガルパの選手控室にあいさつしに行くと、トップ選手のクーガーがミナミを控室に引きずり込む。


「よく来てくれたわね~。みんなに紹介させて~」

「あ、あの。SJWの平ミナミです。今日はサザンとしてお邪魔します。よろしくお願いします」


 ぺこりとお辞儀をすると、控室のキャピキャピした選手たちが黄色い歓声を上げる。


「きゃ~、かわいい」

「うそ、全然ヒールに見えない」

「ねえ、一緒にリングで歌ったりしましょうよ」


 ガルパの若手に囲まれて、わいわいもてはやされ、苦笑するしかない。


(明らかに自分より若く可愛い娘たち……アイドルグループの水着撮影会の控室みたいだわ)


「ミナミちゃん、こっちで打ち合わせしよ~」

「あ、はい。あの、うちのスタッフたちは?」

「午前中からプロモーターさんたちとシステムセッティングに入ってくれてますよ~」

「それは、よかったです」


 営業のIT担当や橋本君の会社のメンバーがすでに現場に入っているのなら、AIシステムのセットアップは問題ないだろう。


 ミナミは、控室の端の方でクーガーと向かい合って席に座った。


(やはり、どう見ても可愛いなぁ……頼んだらサインくれるかしら?)


 でも、よく見ると腕も足も筋肉の付き方がシッカリしている。

 先ほどきゃーきゃー言っていた若手たちとは鍛え方が根本的に違いそうだ。


「今日はありがとう。来てくれて」


 クーガーは二人きりになると、少し大人のしゃべり方に戻した。


「いえ、こちらこそお呼び頂きまして」


 ぺこりと挨拶する。


「AIシステムのすごさはよくわかっているのよ。でもね、うちの戦い方にマッチするのか。そして、うちのファンたちにもね。それが気になっていたの」

「はい。事前に動画をもらっていましたので、できる限りのチューンアップはしてきましたが、実際どのような結果が出るか私たちも気になっています」


 技の完成度としては全体的に劣ると思われているガルパ。

 試合全体の流れやコンテキストを踏まえてどのような評価になるか、ミナミにも予想はできなかった。

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