第94話 新宿西口
会合が終わると、大沢から新宿西口の居酒屋に誘われた。
二人きりでの食事など、1年半前の正月以来だ。
「今日はミナミもジャージじゃないから、少しオシャレなお店の方が良かったか?」
「もう……ジャージは、忘れてください」
(……恥ずかしいけど、あのときのコートの匂い、まだ覚えているわ……)
ミナミは赤面しながら乾杯に応じる。
「疲れは出てないか?」
ミナミが、かなりハードワーク状態であることを知らないわけがない。
「大丈夫です。充実しています。しっかりやり遂げたいです」
「そうか。試合の方も調子が上がってきているみたいだな」
「いや、まあ、あはは」
まだ1か月とはいえ、毎週2回、実際の試合に出るようになった。
それだけでも動きは大きく変わる。
元々の素質はアキラやサクラ、イズミたちからも折り紙付きだ。
実戦が伴えば成績がついてくるのは自明だった。
「それで……ガルパさんの提案はどうしましょうか?」
「ああ。ミナミはどう思う?」
ガルパは、トップ選手のクーガーをはじめアイドル出身者や現在もアイドルと兼業している選手が多く、4団体の中でも一番アイドル路線を推し進んできた。
「アイドル系の魅力も観客が求める要素の一つだと思います。AIシステムがそれをどのように評価するのか、そしてどのような調整をすべきなのか、興味があります」
「そうだな」
大沢は同感だと頷いた。
「ミナミ、一度AIシステムもって遠征してきたらどうだ?」
「え、遠征?私が、ですか?」
「ああ。クーガーと戦ってみたらどうかと思ってな」
「は、はぁ……アキラさんとかサクラさんじゃなく……ですか?」
アイドル出身とはいえクーガーはガルパのトップだ。
失礼に値しないだろうか。
「歯が立たないとあきらめるか?」
鋭い指摘だ。
(……弱気な気持ち、バレたかしら?)
「おれは、今の努力しているミナミなら、いい勝負ができると思うぞ」
「そ、そうでしょうか?そうだといいのですが……」
「腕試しがてら、行ってみたらどうだ?その試合から、AIシステムのチューニングの方向性も何か掴めるかもしれないしな」
「……」
当然、SJWを代表してということになる。
(本当に私でいいのかしら?もしかして……おちょくってる?)
でも、大沢の笑顔は、人をおちょくっている表情ではなかった。
どちらかといえば、少年がTVの前でわくわくしている表情だった。
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