第101話 神楽坂
タクシーで10分ほど走り、神楽坂へ。
細い小道に入り、少し歩くと小さなスペイン料理のお店がある。
「うわー、おしゃれなお店ですね」
内装は白い壁に、木のテーブル、カウンター。
その奥で、シェフが挨拶をする。
「そちらのカウンターへどうぞ」
大沢は先ほどの予約でコース料理を頼んでいたようだ。
ワインで乾杯。
そして料理が次々と運ばれてくる。
(おいしそう。私、こう見えてもプロレスラーだから、食べることに関しては得意分野なのよね)
こうして、たわいもない話をしながら食事が進んでいく。
お酒も回ってきた。
(やっぱり、ふたりのときの大沢さんは優しくて……)
ミナミは少し、食べる手を止めた。
(優しくて……甘えてちゃだめだと実感する)
大沢もミナミの雰囲気の変化に気付いた。
「……で、今日の大会をみて、どうだった?」
「大成功だと思います。AIシステムもそうですし、選手もみんなのびのびと楽しそうで……」
「そうだな」
「ツツジも元気そうでした。ドームのメインイベントに出場しちゃうんだもの。やっぱりすごいです。私、嬉しかったです」
「そうか」
(違う。いや、違わない。でも違う。嬉しいのは嘘じゃないけど……)
「思ったこと、全部言っていいんだぞ」
大沢はぼそっと促す。
大沢にはミナミの気持ちは筒抜けなのだろう。
だから、選手たちの打ち上げではなく、二人での食事に誘ってくれたんだと、ミナミも気づいた。
「……私も、あそこに立ちたかったです。メインじゃなくても、第一試合でもいいから、選手として、リングに立ちたかったんです」
ミナミの瞳には涙が浮かび始めていた。
「この二日間、試合を見ながら考えていました。4月から全戦参戦してきました。朝練も夕方の自主練も……でも、まだまだ足りない。追いつけないんです。追いつけない……」
大沢は静かにうなずいた。
「……私、どうしたらいいんですか?仕事、あきらめなければいけないんですか?」
もう涙が止まらない。
薄々、感じていた。
(……そろそろ、両立は限界なのかもしれない)
そもそも、AIシステムが稼働し、4団体も巻き込まれ始めていて、すでに二人の理想は達成し始めている。
(大沢さんも、もう経営企画としての私には期待することがなくなったんじゃないの?であれば、選手に専念すべきなの?)
ミナミはかぶりを振る。
(そんなの……いや)
そんなミナミに対して、大沢は優しい目を向けた。
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