第92話 四社会談

 大沢は、各団体の社長や代表選手とも顔見知りのようだ。

 ひとりひとりに軽い雑談を交えながら挨拶をしている。


(さすが、元ZWW企画部長。顔が広いわね)


 やがて、全員が席に着くと、大沢が会議の開始を宣言した。


「とにかく、まずはSJWのAIシステムについて知ってもらうことが大事です。資料も準備しましたので、それをもとに説明をさせてください」


 そういうと、ミナミに目配せする。

 ミナミは、橋本と一緒に作った資料を配って回る。


「最初のページはAIシステムの全体像です。ポイントは今急成長を見せている生成AI技術を使って試合のリアルタイム評価を行うこと。そして、マッチングを提案することです」


 いつもは社長としてプレゼンを受ける立場の大沢が、今日は堂々と自らがプレゼンしている。


「我々は、東大発ベンチャー企業と業務提携をしています。彼らは東大の最先端LLM技術、特に動画を扱えるマルチモーダルLLMを得意としています。これが、プロレスにぴったりとフィットした理由です」


 ミナミは大沢のプレゼンを見るのは初めてだ。

 それは、スタートアップのピッチイベントでも見ているかのような、躍動的で情熱的なプレゼンだった。


(か、か、かっこよい。かっこ良すぎる。どうしよう……スマホで動画保存したい……さすがに、不謹慎かしら)


 そんなミナミの葛藤をよそに、大沢はAIシステムで何ができるのか、SJWでどのような効果が発揮し始めているのか、よどみなく説明をしていった。


「以上がAIシステムの概要です。今日はこれを使った4団体の対抗戦を提案したい。日本中を、いや、世界を驚かせるイベントになると思います。ここにいるみなさんと手を組んで、東京ドームを満員にしたい」


 大沢はこぶしをぐっと握った。


「AIシステムについてのご質問があれば、ここにいる平ミナミに答えさせます。彼女は選手と経営企画を兼務していて、このAIプロジェクトの責任者です」


 大沢はそういうと席に座った。


(せ、せ、責任者?い、い、いつからそうなったんだっけ?)


 ミナミは慌てて大沢に抗議の視線を向けるが、大沢は爽やかな顔で受け流した。

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