第91話 ディスラプター

 ミナミと大沢は、本社だろうが、地方興行先のホテルだろうが、移動中のバスの中だろうが、構わずに頻繁に打ち合わせを重ねていった。


「タイミングは7月下旬。夏休みの前半にしたいね」

「他3団体へのアプローチはどうしましょうか」

「おれに任せろ。元ZWWの企画責任者として、各団体へのコネクションはもっているつもりだ」


 やはり、こういうところは圧倒的に頼もしい。

 翌日にまた呼び出されると段取りは進んでいた。

 

「四社会談が決定したぞ」

「すごいです。設定早すぎですよ」

「おれたちのシステムはディスラプターだ。各団体も無視はできないのさ」


 大沢はあえてディスラプター(従来市場を破壊し強制的に新規市場を作り出すもの)という言葉を使った。


 各団体とも、いきなり出てきたAIシステムブームにどう向き合うか悩み始めている。対応を間違えたら一気にプロレス業界の流れから取り残されるという危機感があるからだ。


 それほどの強烈な影響力がついたSJWからの会談要請を断れるはずがない。

 その事実を大沢は十分に理解していた。


「各団体ともに、団体代表と選手の1名ずつが集まることになった」


(であれば、やはりアキラさんが適任ね。イズミさんやサクラさんだと、打ち合わせの席で誰かと喧嘩始めそうだもの……)


 心の中でクスクス笑うミナミ。

 しかし、笑っている場合ではなかった。


「うちの選手代表はミナミで行くぞ。いいな?」

「へ?えっと、アキラさんが適任では?」

「AIシステムについて説明できる選手はミナミしかいない。だから、君が代表だ」


 そう言われると覚悟を決めるしかない。


「……は、はい……」


 ミナミは不安でドキドキしながらも、覚悟を決めた。


 数日後、新宿西口にある都庁近くの有名私鉄系ホテルで四社会談が開催された。

 主催者の大沢とミナミは早めに会議室に入った。


 まもなく、ガルパの社長と代表選手であるクーガーが登場。


(うわ、すごいかわいい。さすが、元アイドルだわ)


 そして、OWPの社長と渋谷。


(渋谷さんは対抗戦以来。さすが日本最強ヒールの貫禄ね)


 そして、業界一位のDIVAが登場する。代表選手は吉祥。


(この人が……日本最高プレイヤーと名高い、吉祥さんだ……おとなしそうなのに、オーラが全然違う。アキラさんに似た雰囲気ね)


 ミナミは、錚々たる選手人の前に、自分があまりにも釣り合わない気がして肩身が狭く感じるのだった。

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