第90話 自分の本音、自分の言葉
「AIシステムを、他の団体にも開放して使ってもらいたいんです」
「ほう」
「せっかく作り上げたのにと怒られるかもしれません。でも、プロレスの本質を変えられるシステムができたんです。だからこそ、これを使って女子プロレス全体を変えていきたいんです」
ミナミは勇気を振り絞り、俯いて捲し立てた。
これまでは、大沢が想定した方向に向かって全力でがむしゃらに突き進んでいた。
今、初めて、ミナミは自分の本音を、自分の言葉で大沢にぶつけた。
大沢は、かつての言葉を思い出す。
『究極の技と技のぶつかり合いの魅力がきちんと評価されるようなプロレスの世界を作りたい』
その対象はSJWに限られない。
(ミナミはあの時から、女子プロレス全体を見ていたんだな)
大沢はミナミの頭をくしゃっと撫でた。
「今のSJWは他の団体を巻き込むことができる位置にいる。他団体がAIに手を出す前にすぐに動けば業界を動かせるはずだ」
ミナミは胸がはちきれそうだった。
SJW社長としてはシステムの独占を狙ってもおかしくないのに、大沢は理想の拡大に理解を示してくれた。そして……
「おれも考えていたことがある」
「考えていたこと?」
「AIシステムを使って、4団体対抗戦を開こう。全日本対抗戦だ」
ミナミは驚いて大沢を見上げる。
「AIシステムを他団体にも使ってもらうなら、まず対抗戦でAIシステムを知ってもらうのが手っ取り早い。そのうえで、システムの提供を提案するべきだ」
「……すごいです。それ、大賛成です」
ミナミは震えた。
やはり、自分の考えと大沢の考えは一致していると信じることができる。
そして、自分は漠然と全団体で使ってもらえたらいいなと考えていただけだったが、大沢はすでに具体的なアイデアまで考えている。
胸が大きく高鳴っている。
「選手と対抗戦の成立、両立は大変だと思うけど、がんばってやってみるか?」
「はい。ぜひ、やらせてください」
そして、大沢は最後に付け加える。
「じゃあ、来週からの興行は全部参戦するようにAIマッチングの条件を変更しておけよ。あと、明日ノートPCとモバイルルータを支給する。リモートワークができた方が良いだろう」
「あ……ありがとうございます」
ミナミは、自分がなんと幸せか、実感して、涙が出そうなのを一生懸命こらえた。
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