第十七章 全日本対抗戦構想 <入社4年目春~夏>
第89話 悩み
雪が降り、それが融け、桜のつぼみが膨らみ始める。
ミナミと橋本は、AIシステムの実戦トライアルを継続し、どんどん改良を進めていった。
春先には、リアルタイムAI実況を搭載。
ポイント表示だけでなく、技や試合の流れのAI解説まで実装した。
イズミのTV活動アピールも相まって、一年前のランキング制導入のブームをはるかに超えるビックウェーブがSJWを覆い始めていた。
そして、ミナミが入社して4年目が始まる4月1日。
AIシステムの本格稼働が開始した。
そして決算速報も絶好調。
売上 5.8億円(前年比141%)
営業利益 約3千万年(前年比255%)
M&A、ランキング制度、AIシステムがうまく回った結果である。
好決算を受けて、大沢は全選手との契約金額20%増、従業員給与20%増。
ITに詳しい営業人材を2名中途採用。
順風満帆である。
しかし、ミナミは浮かない顔をしていた。
それを気にした大沢がミナミを呼び出す。
「何を悩んでいるんだ?」
「……えっと……」
「何でも言っていいぞ」
「……あの、ですね。私、強く……なりたいです」
ミナミ唇をかみしめた。
「私、AIランキング最下位です。両国でも勝てませんでした。先輩に助けられ、地方興行も免除されていますが、それに甘えていちゃダメなんだって。本当はもっと試合に出て実践経験を身に着けないといけないんだって……」
「そうか」
「地方興行免除ではなくて、普通の選手として、全興行に参戦したいです」
ランキングも試合勘も、実戦数が少なければ向上しない。
ミナミの悩みはそこにあった。
「それは構わない。で、仕事はどうする?選手に専念したいか?」
それを聞いて、ミナミは怯えるように大沢を見る。
(まだ、やりたいことがあります。でも……)
大沢はミナミが導き出した答えに気が付いているのだろう。
選手に専念したいだけなら、ミナミはこんなに悩まない。
「両立したいんだな?」
「……はい」
「で、仕事の方にもこだわる理由は?」
AIシステムは理想に近い形に仕上がってきている。
にもかかわらず、無理を承知で全試合参戦と通常勤務を両立させるということは、まだやりたいことがあるということだ。
「なんでも言っていいといったはずだぞ。どんな提案でも、おれはミナミをサポートするつもりだ。遠慮はするな」
(ああ、やっぱり、この人は見抜いているのね……)
ミナミは観念して、口を開いた。
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