第87話 両国国技館

 クリスマス大会。

 昨年に引き続き両国国技館。


 事前に新システム試用をアナウンスしていたこともあり、1万1千人の超満員。

 SJWの単独興行記録を塗り替えた。


 AIマッチングによるメイン試合は、一年以上ぶり二度目のサクラとイズミのヒールタッグ。現状想定出来る中では群を抜いたスペシャルタッグであり、大きな話題を呼んでいる。


 ミナミは、第七試合。

 1年目の新人にしては悪くないポジションだ。


「第七試合なんて。私でいいのかしら?」


 橋本がチャカチャカとキーボードを叩く。


『入団1周年記念マッチです。ご祝儀です』


 瞬時に回答が返ってくる。


(ご祝儀って……AIすごいわね)


「あ、あと。さっき、偶然近くに神社があったから……」


 橋本は、ミナミに亀戸香取神社の勝運袋(お守り)を渡す。


「あ、ありがとう。嬉しい」

「試合終わったら、良かったら食事でも行かないか?」

「そうね。今日のAIお披露目のお祝いもしなきゃいけないものね」


 ミナミは橋本にウインクを送ると試合に向かう。


 試合の相手は中堅選手。

 これまでと一緒だと、徐々にじり貧になってフォール負けするパターンだ。


 序盤。

 関節技を織り交ぜていくミナミ。新しいスタイルだ。

 そこから打撃。効いてない。やはり、パワー不足は否めない。

 先輩の攻勢を何とか凌ぎ、ロープに振られた際にトップロープに飛び乗り、反動で反転してボディアタックを浴びせる。


(ここで盛り上げる)


 ミナミは、大きな声を上げた。


「とどめだー!」


 それを聞いた観客は歓声をあげる。


 ミナミはバックに回ると、相手の両腕を背中越しにがっちりと自分の両腕で挟んだ。そして、そのまま背面に投げる。

 タイガースープレックスホールドだ。


「「おおおー!異次元覆面が新技だ!!」」


 カウントは惜しくも2。


 ミナミはコーナートップロープに飛び乗ると、観客に向かって右手を挙げる。

 しかし、先輩選手は危険を察知し、コーナーに上ったミナミに突進。

 ミナミは雪崩式ボディスラムを食らってしまう。


 その後は、何度かの技を凌いだような気がするものの、いつの間にか両国国技館の天井を眺めてスリーカウントを耳にしていた。


(……また、勝てなかった……)


 朦朧としながら、花道奥のディスプレイを眺める。

 そこには、両選手の試合のスコアが示されていた。


(リアルタイムにスコアが……なんだか、恥ずかしいわね)


 これが、後にプロレス界を揺るがすAIシステムのデビュー大会となった。

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