第85話 週刊WW

 週刊WW記者の烏山に連絡すると、さっそく翌日の朝練時間にやってきた。

 そして、断りもなく新技練習しているミナミの写真を撮りまくる。


「あの、これは秘密練習なんですよ?それにマスクしてませんし」

「大丈夫。これは趣味だから」


(……趣味って変な意味じゃないでしょうね)


 あきれたもんだが、呼び出したのはSJWだから仕方がない。


「面白そうですね。会社に戻って協議してみます」


 ニヤリと笑う烏山。

 マスク姿のサクラが釘をさす。


「まだ記事にはすんなよ?」

「わかってますよ。でも、オマケは欲しいですね」

「じゃあ、若手覆面ヒールの素顔写真撮り放題をくれてやる」

「ちょ、ちょっと、ちょっと待ってください、サクラさん。それって私のことじゃないですよね?サクラさん?」


 サクラはミナミを完全に無視して去っていった。


 そして、ミナミと橋本は烏山との協議を本格化する。

 秘密保持契約書を締結すると、実際のデータベースを見せてもらう。


 ここ最近10年程度の試合であれば、メジャーな団体の試合はすべて電子記録が残っていた。少し大きな大会であれば各試合の記事原稿も残っている。


「すごいね。これならリアルタイムスコアリングのAI学習も捗るわね」

「記事には過去の経緯と試合の関係も書いてあるから、時系列コンテキストも分析できるよ」


 橋本は目を輝かせる。


「コンテキスト?」

「そう。試合前後の文脈のことさ。例えば、因縁のライバルだとか、前回までずっとかわされていた必殺技をついに成功させたとかね。試合単体ではわからない情報だ」

「たしかに。過去試合とのつながりは重要な要素よね」

「それに……」


 橋本がにやりと笑った。


「コンテキスト分析できれば、その後の出来事を生成することもできる。試合の最適マッチング提案できるかもしれない」

「……え?それってすごいことじゃない?」


 AIで、人間によるマッチングとほぼ同じことを実現できるかもしれない。


「ZWW時代の動画の使用権も取れたら、もっと分析精度はあがるんじゃないですか?」


 烏山の提案に、一同なるほどと唸る。


「じゃあ、おれが交渉しに行って来てやる。そのかわり、上手くいったらミナミはリングで腹踊りしろ」

「は、はらおどり?なんでそんなこと……」


 そして、翌日の朝練。

 ニコニコのサクラ。

 動画権利を保有しているZWW創始者に可愛がられていたサクラだからこその交渉成果だった。


「腹踊り忘れんなよ?」

「……絶対に、やりません」

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