第十六章 スコアリング改革実行 <入社3年目秋~入社3年目冬>

第84話 教育

「要件定義から始めよう」


 DXも要件定義からだったことを思い出す。


(片倉さんは、顧客の要望と解決策を、具体的な言語や数値で定義した仕様書のようなもの、って言ってたわよね)


 IT業界はやり方が共通しているみたいだが、AIの場合は要件定義を決めること自体がすでにAIコンサルの領域になるみたいだ。


「どんな項目を点数化するか。その項目をどのようなデータから抽出してくるか。これを構造化というんだ」


 ミナミはうんうんと頷くが、目は泳いでいる。


(構造化?む、難しいんですけど?)


「今のランキング評価は試合結果、試合内容、試合外貢献の3項目だね」


 評価内容はロジカルシンキングでさらに細分化されている。

 例えば、

 ・高い技術力で技の繰り出し、回避、攻防ができているか

 ・相手の技を引き出せているか

 ・観客が盛り上がる場面を作れているか、観客の反応は盛り上がっているか

 ・期待を越えるサプライズを魅せられているか


「動画を使ったマルチモーダルLLMの強みを生かして、このような小項目を評価できるように教師データをAIに教える方法が悩ましい」


 評価委員会メンバーレベルの専門的な知見や経験が必要な部分だ。


 ミナミは意を決してヘルプを仰ぐことにし、サクラにチャットを入れた。


「なんだか企んでるらしいな?」


 サクラは会議室に入るとソファにどかっと座る。


「サクラさん……お忙しいのにすみません」

「別にいいさ。同じヒール組の仲間だしな。で、何をしてほしいんだ?」


 二人はこれまでの経緯を説明する。

 すると、サクラは怪しい笑顔を浮かべた。


「じゃあ、一試合の動画を見ながら実際に評価してやろうか?」

「いいんですか?」


 こうして、3人の評価会が始まった。


「な、な、な、なんで私の試合なんですか?しかもボロボロだった試合じゃないですか」

「その方が実感湧くだろ?ほら、覚悟しろよ」


 乱暴な口調で容赦ない指摘が繰り広げられる。


 ヒールなのに入場が弱弱しい。

 動きはいいけど、技が単調。

 飛び技が多すぎ。

 観客煽り方悪い。

 受け身は流石。

 大技完全に読まれている。

 頭使ってる?

 だから負けるんだ。

 退場の仕方もヒールっぽくない。


(……いいところがほとんどない……)


 落ち込むミナミをよそに、サクラはさらっと提案する。


「週刊誌の記事が出てる試合なら、その記事と動画をAIに読み込ませればAIの学習は深まるんじゃねえか?」

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