第82話 マルチモーダルLLM

 翌週。

 橋本との再打合わせ。

 早速、1枚の概要書を手渡された。


『開発サービス概要』

 ①プロレス用マルチモーダルLLM構築

  ・追加学習:動画、雑誌記事

 ②リアルタイムスコアリングシステム

  ・マルチモーダルLLMによる試合評価てスコアリング 

  ・評価対象:全選手の全過去試合情報と当日の会場のリアルタイム動画


「……詳しくはわからないけど、なんだかすごいじゃん」


 前回教えてもらったおかげで、なんとなくやりたいことが伝わってくる。


「ポイントは、AIにプロレスをしっかり教え込むこと。そのために動画も扱うこと。プロレスはテキストだけじゃ評価できないだろ?」

「そうね。技もそうだけど、雰囲気や緊張感、観客の盛り上がり、そして試合の流れや間、相手の技を引き出す魅力なんかもあるからね。文字だけでは伝わらないと思うわ」


 評価委員会メンバーも動画で評価をしている。


「テキスト以外の画像や音声、動画ファイルも扱えるLLM技術をマルチモーダルLLMというんだ」

「マルチモーダル?」

「最新の技術だ。うちの専門分野でもある」


 もう一枚の紙を差し出される。

 見積書だった。


「問題は、開発と運用に数億円のコストがかかることだ」

「……やっぱり、そうよね」


(さすがに、今のSJWにはそんな資金はないわ……)


 ミナミはがっくりと肩を落とした。


「そこで、ひとつ提案がある」

「提案?」

「マルチモーダルLLMを使ったリアルタイムスコアリングシステムはうちの投資で開発しようと思う。SJWはプロレス用マルチモーダルLLMのみ投資してもらうという案だ」

「橋本君が投資してくれるの?」

「その代わり、リアルタイムスコアリングシステムはSJW独占にはできないけどね」

「なるほど、主旨がわかってきたわ」


 つまり、このシステムを他社向けビジネスにも使いたいということだろう。


「正直数億の投資はうちでもリスクが大きい。でも、最先端のスポーツテックAIスコアリング開発をするといえば、ベンチャーキャピタルから資金調達ができるはずだ」

「橋本君……ありがとう」


 ミナミは資料を机に置いた。


(さすがに、こんな大きなリスクを負わせるわけにはいかないわね……)


 橋本をまっすぐに見つめる。


「提案はすごく嬉しい。でも、そこまで迷惑はかけられないわ」


 でも、橋本は首を横に振った。


「ミナミは本気で取り組みたいんだろ?おれは、手伝いたいんだ。夢なんだろ?」


 その言葉は、ミナミの心を大きく揺さぶった。

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