第78話 流れ星を待つ

 ケーブルカーを降りると、山腹の展望レストランを横目に、ヘッドライトをつけて山頂目指し小一時間歩いた。

 あたりは暗くなってきたが、流星観測目的の人はそれなりにいる。


 待ち合わせ場所と決めた広場の隅に座ると、ぼーっと空を見上げる。


(流れ星にツツジが来てくれるようにお願いしよう。そして、大沢さんがやらせに関与していないことを祈ろう)


 そう思ったが、まだ流星は見当たらない。


 やがて首が疲れて、体育座りの体制で顔を膝に埋めた。

 どのくらい経ったのだろう。


 スマホが鳴った。


「ミナミ。心配したぞ。どこにいる?」

「……」


 質問には答えずに、逆に質問をする。


「ツツジがやらせの指示を受けたというのは、本当なんですか?」

「……ああ、本当だ」


 ミナミは深く目を閉じる。


「ランキング制も導入して、技術で魅せる団体になろうって言ったのに……なんでまだやらせが出てくるんですか」

「まだまだ取り組みが十分じゃないんだ」

「……だったら、やらせをさせてもいいんですか?」


 語気を強めてしまう。


(だめだ……こんな言い方したら……)


 SJWにもやらせがある。

 マッチングを指揮している営業部による勝敗指示。

 ミナミもそのことは薄々感じていた。

 だからこそ、決定的な状況になる前に何とかしたかった……


「……ツツジは移籍するって……私の大事な親友が……」


 ミナミは泣きながら声を震わせる。


「ミナミ……この業界は闇だ。やらせは常識のようにはびこっている。こんな業界は変えなければいけない。でも、この闇を打ち払うには大きな痛みが伴う場合もある。」

「……」

「ランキング制で勢いが付いたがまだまだ課題は残っている。今の勢いを最大に使って、完全に闇を打ち払う恒久的な仕組みに進化させないと改革は成功しない」


 言われていることは正論だ。

 でも、その痛みを、なぜツツジとミナミが受けなければいけないのか。


「私はどうすればいいのでしょうか」

「それを自分で考えることが大事だ。与えられるだけでは成し遂げられないことがある」


 大沢の言葉が鋭く刺さる。

 今まで、大沢を信じて応えてきたつもりだった。

 でも、まだまだ近づけていないことを実感する。理想にも、大沢の気持ちにも。


(……いつになったら、近づけるのかしら……)


 瞳から涙が一筋流れ落ちる。


「……少し考えさせてください」


 ミナミは、電話を切ると、空を見上げた。

 大切なものが手のひらから落ちていく。

 雲がかかり始めていて、星は見えなくなっていた。

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