第十五章 スコアリング改革構想 <入社3年目秋>

第79話 ランキングの課題

 翌日。


(……うじうじしていても仕方がない。やれることを、やるしかないわ)


 ミナミは出社し、そのまま社長室に向かった。


「答えは出たか?」


 大沢の問いに、ミナミは首を振る。


「何をすべきかはまだわかりません。でも、今はとにかく改革を進めたいです。そして、もう二度と今回のような別れはしたくないです」


 ツツジを失った気持ちは、あまりにも大きい。

 でも、ここで折れたら、それすらも無駄になる。

 これは、ミナミの覚悟の表れだった。


 大沢は、ほっとしたような、うれしいような、複雑な表情をしながら答えた。


「それでいい」


 大沢はミナミを席に座らせる。


「ランキング制で様々な魅力を定量評価することができるようになった」

「はい。でも、まだまだ課題はたくさんあると?」

「どんな課題があると思う?」


 ミナミは昨日から悩んでいることを口に出し始めた。


「試合評価のために、委員会メンバーの大きな負担をかけています」

「それで?」

「だから、あまり細分化された評価はできていません」

「人がやっている作業だから仕方がないところだな」

「時間もかかるので、試合中にその場で評価ができません」

「そうだな」


 大沢は大きく頷く。


「その場で細かい評価ができたらどうなる?」

「観客にアピールできますよね。どこがどう良かったのか」

「おれもそう思う。今は単なる勝ち負けだけど、どれだけ良い試合だったかをアピールできるようになるはずだ」

「そうすれば……」


 ミナミの顔に明るさが戻り始める。


「より良い試合が勝ち以上に評価されるから、やらせなんてできなくなるかもしれませんね」


 大沢はにこりと笑った。

 ミナミは頭を掻く。


(完全に誘導されているわね。でも、方向性は見えてきた)


「あとは、これをどうやって実現するかですね」


 大沢は難しい顔で頷く。


「毎回審査員をおくにしても、コストもかかるしバラツキも大きいからな」

「私……ひとつ、アイデアがあります」


 ミナミは覚悟を決めた。

 難しい課題だけど、やらないで後悔はしたくない。 


 相談相手の最有力候補は頭の中に浮かんでいる。


(相談したら嫌味をいわれそう……ヤラセじゃないのかってしつこく言ってたもんね。でも、背に腹は変えられない)

 

 ミナミはスマホを取り出すと、ゼミのグループにチャットを入れた。




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