第76話 優勝の代償

 イズミに右手を掴まれガッツポーズするミナミ。

 止まないカメラのフラッシュ。

 地鳴りのよう響く歓声。

 渡される花束。


 優勝したのだと理解する。

 嬉しいと思う。

 でも何か違和感がある。


 イズミがリングアナからのインタビューに答え、その後にマイクがミナミにも渡される。


「おめでとうございます」

「え、えっと……応援ありがとうございました」

「フィニッシュは素晴らしいローリングギロチンドロップでした。決勝戦に向けた秘密兵器ですか?」

「……は、はい。イズミさんに教わり秘密で特訓をしていました」


 こうして、インタビューは何問か続いた。

 そして最後に一言と問われ、イズミがマイクを取り戻す。


「ま、今後も俺たちヒールがSJWを黒く染めてやる。お前ら、ついて来いよ!」


「「おおおおお」」

「よくやった」

「やっぱりイズミだ」

「サザンのローリングギロチンもすごかったぞ」


 こうして、大歓声を受けてリングを去る。

 ミナミも、観客の声援に手を挙げて応え、控室に向かった。


「イズミさん、ありがとうございました。おかげで優勝できました」

「いや、それはお前の努力の成果だろう」

「イズミさんの指導のおかげです」

「それもあるけどな。で、決勝の舞台はどうだった?」

「……」


 ミナミは意を決して答える。


「違和感がありました。ツツジがあんなに簡単にフォールを取られるはずないんです。私の軽い技でなんて……」


 イズミはすでに悟っているように答える。


「そうかもな」

「はい……だから、ちょっと行ってきます」

「ああ、それがいい。行ってこい」

「はい。ありがとうございました」


 ミナミは礼を言うと、控室に向かって駆けだした。



 控室に戻る途中。

 ツツジがひとりで立っていた。

 まるで、ミナミを待っているかのように。


 ミナミはマスクを外し、ツツジの正面に立つ。


「ツツジ。説明してよ」

「……もう、わかっているんでしょ?」

「……わかんない。説明してくれなきゃ、わかんない」


 頭を何度か横に振る。


「会社から指示があったのよ。決勝戦ではフォール負けしろってね」

「うそでしょ?」

「珍しいことじゃないわ。大きな大会ならよくあることよ」


 ツツジは悲しそうな顔でミナミを見つめる。

 今回が初の大きな大会参戦のミナミ。

 だから、今までぶつからなかった事実。

 

「……いつそんな指示が?」

「準決勝の前よ」

「そんな……そんなことって……」


 頭の中が真っ白になる。

 涙が一筋流れ落ちる。


 これが違和感の正体。


 所謂『やらせ』だった。

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