第75話 決勝戦

 8月12日の後楽園ホールメインイベント。


『アキラ-ツツジ組 対 イズミ-サザン組』


 ミナミ扮するサザンにとって、初のメインイベント出場。

 しかもタッグトーナメント決勝戦だ。


『青コーナー、イズミ選手、サザン選手の入場です』


 リングアナの声が場内に響くと、割れんばかりの歓声が聞こえる。

 さすがのミナミも緊張していたが、それよりも楽しみの方が大きかった。


 リングで相手を待つ。

 やがて、赤コーナーに、アキラとツツジがやってきた。


 先攻はツツジとミナミ。

 公式戦での対決はミナミのデビュー戦以来。

 だが、普段の練習では誰よりも多くスパーリングしている。


 それゆえの質の高い序盤の攻防で、観客を一気に魅了する。


「おい、代われ」


 イズミに呼ばれてタッチする。

 それに合わせて、ツツジもアキラにタッチ。


「「おおおおお」」

「待ってました」


 実はアキラとイズミの直接対決はこれが初めて。

 怒号のような声援と歓声。


 一定の距離を保ちつつ、リングをゆっくり回る二人。

 両手を取り合い力比べ。

 そこから技の出し合いが続く。


 パワーではイズミ。

 スピードではアキラ。

 さすが、トップレスラーの一騎打ちで、観客も息をつく暇もない。


 その後も、両チームともにタッチが頻繁になされ、様々な組み合わせの技と技のぶつかり合いが披露される。


 しかし、やはり実力差が出始め、最初に捕まったのはミナミだった。

 ツツジが一本背負い。

 続けてアキラが逆一本背負い。


 二人の決め技を連続でくらったら立てる見込みはない。

 だが……


(あのときと一緒だ)


 いつかの練習を思い出し、過回転で技を抜けた。

 

「「おおおー」」

「すげー、こらえたぞ」

「さすが異次元」


 命からがらコーナーに帰りイズミにタッチ。


 回復したイズミが、まるでブルトーザーのように、アキラをリング外に押し出す。

 そして、ツツジに猛烈なラリアット。

 ツツジが倒れる。


「ここで決めろ!」


 イズミはミナミにタッチする。

 ミナミはトップロープに上った。


(上じゃない。前に飛び出すんだ)


 ミナミの体はきれいに前転する。

 練習の成果、秘密兵器の新技ローリングギロチンドロップがツツジに決まった。


 ここぞの場面での新技に観客は大盛り上がり。


「1……2……」


(この後、私がアキラさんを何とか止めて、イズミさんのギロチンで……)


 そう算段を組んでいた。

 しかし、予想外の結果に終わる。


「スリー!」


(え!?)


 その瞬間、大歓声が天井から降ってきた。

 ミナミはその結果を茫然と眺めていた。

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