第十四章 タッグトーナメント本戦 <入社3年目夏>

第74話 タッグトーナメント準決勝

 8月11日。後楽園ホール。


(昨年ここでワカバのマスクを外した。今年は私がマスクをつけてこの舞台に上がる。自信を持つんだ)


 テーマ曲に乗って入場する二人。


 ゴングが鳴る。


 これまでと同様の流れで主導権を探る二人。

 しかし、相手も準決勝まで来た実力派。対策を練ってきている。

 徹底的にミナミの投げ技をマーク。

 とにかくバックに回らせないように二人がかりでミナミを止めに来る。


(だったら……副産物をお見舞いしてやる)


 ミナミは相手の不意を突いて、ツツジ直伝の一本背負い。

 まさか前から投げられると思っていなかった相手は面を食らう。


 ペースを掴みなおしたイズミ-ミナミ組は、一人をリング外に投げやり、残ったひとりをリング中央に寝かせる。


 ミナミがトップロープからギロチンドロップ。

 それに続いて……


「とどめだー!」


 イズミの超ド級ギロチンドロップ。

 二連弾のコンビネーションで、ついに決勝へコマを進めることになったのだった。



 控室に帰る道で、次のメイン試合に向かう選手4人が出番を待っていた。


 もう一つの準決勝。


『アキラ-ツツジ組 対 サクラ-ワカバ組』


 現トップツー同士の対決ということもあり、注目のカードだ。

 そして、ミナミにとってはこの一年深くかかわった4人でもある。


 ひとりひとりにがんばれと檄を送る。


 最後はツツジだった。


「ツツジ。私、やったよ。そっちも頑張ってね。絶対、決勝一緒にやろうね。そして、高尾山に行こう」


 ミナミは満面の笑み。


 ツツジは……


「うん。いい試合だったね。私もがんばるよ」


 そう言い残して準決勝に向かって出ていった。


(あれ?……やっぱり、ツツジでも緊張することがあるのかしら)


 口数が少ないツツジを気にするミナミ。


 でも、そんな心配はよそに、アキラがワカバを逆一本背負いでリングに沈め完勝。

 見事に決勝進出を決めたのだった。



「ツツジ、やったね。おめでとう」

「うん、ありがとう」

「明日も楽しみだね」

「……あのね、ミナミ」


 ツツジは申し訳なさそうに、そして少し悲しそうにミナミから目を逸らした。


「明日戦う敵同士だから、今は慣れ合いは止めよう」

「え、あ、う、うん……」


 面喰った。

 SJWではリングを離れればメインイベントの試合相手とだって普通に話す。

 現に、イズミもアキラと雑談している。


 一緒に決勝に出れるねって。

 そこでいい試合しようって。

 励まし合いたかっただけなのに……


(緊張しているのかしら……)


 なぜか距離感を感じるのであった。

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