第73話 異次元殺法

 夕錬の時間を予約できたのは1週間後だった。


(他のチームも、頑張っているものね)


 全員出場のタッグ戦だから仕方がない。


 とはいえ、すでに7月後半。

 この週末の土曜日に第一回戦、日曜日から第二回戦が始まる。

 イズミ-ミナミ組は第二回戦からなので日曜日が初戦だ。


「必殺技を教えるにあたって、一つだけ条件がある」

「はい」

「誰にもばらさないこと。それと、決勝戦までは絶対に使うな」


 条件が二つになっていることよりも、条件の理由が気になる。


「でも、出し惜しみして序盤で負けちゃったら……私、足を引っ張りたくないんです」

「引っ張らねえよ。今のお前なら」

「え?」


 驚きの表情を隠せない。

 自分はランキングビリ独走中なのだ。


「ここ1か月。何を頑張った?」

「えっと……イズミさんを投げること……」

「そうだ。あれが試合でできるなら、秘密兵器を出さなくても決勝まで勝ち上がれるさ」


(……秘密兵器。そういうことか。それならばツツジをびっくりさせることができる。でも……本当に決勝まで足を引っ張らずに行けるかしら)


「安心しろ。おれは評価委員だぞ。選手の実力は全部把握しているさ。じゃあ、コツを教えてやる。まずトップロープに上れ。お前の運動能力ならすぐにマスターできるさ」


 こうして、ミナミはみっちり二時間、秘密兵器の極意を教わった。



 そして日曜日。

 夏休みはじめなので小さな会場でも満員御礼だった。


 イズミとミナミはお揃いの黒Tシャツでリングに上がる。


「「イズミ」」


 流石にTVタレントでもあるベテラン。声援も多い。


「サザンもがんばれ」

「異次元の力を見せてくれ」


 ミナミへの声援は……おまけか?それともおちょくりか。


 しかし、その声援の質はやがて変わっていく。


 試合前半はミナミがドロップキックやスープレックスで先行攻撃。

 相手が乱れたところでイズミがパワフルにアタック。

 ミナミが反則攻撃を混ぜながら一人を抑え、その間にイズミがもう片方にラッシュ攻撃。

 そして、相手二名をリングに寝かせると、イズミとミナミが同時にギロチンドロップを共演。

 ミナミが片方の自由を奪っている間に、イズミがもう片方からスリーカウントをもぎ取る。


 この勝ちパターンがピタリと嵌った。


 翌週土曜日の第三回戦も同じパターンで突破。

 破竹の爆進撃で準決勝戦まで到達したのだ。


『投げにギロチン。まさに異次元殺法』


 雑誌記者の烏山がそう評したらしい。

 ミナミの実力が、徐々に開花し始めている兆しだった。


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