第70話 必殺技の覚悟
タッグ再結成を受け、イズミが2時間練習のため夕方の時間を予約し、ミナミを呼び出した。
ミナミはリングに合流するなり、意を決して懇願した。
「あ、あの。イズミさん、お願いがあります」
「ん?なんだよ?思いつめた顔して」
「今度の大会に向けて、イズミさんの決め技を伝授してほしいんです」
イズミは怪訝な顔をする。
「何言ってんだ?トップロープからのギロチンドロップは教えてるだろ」
確かに、正月に大沢からの助言で教わっている。
試合でも使うようになっていた。
その高さと速さは定評がある。
だが、ミナミには重量が足りない。軽すぎるのだ。
「はい。その……もう一つの方を……」
「……ふーん。そっちかよ。さすがにお前にはまだ荷が重いだろ」
「……それでも。今回の大会で、イズミさんの足を引っ張りたくないんです」
「……」
タッグパートナーとはいえ、プロデビュー8か月のひよっ子がベテランに往年の最高の決め技を教えろと言っているのだから、尋常ではない。
イズミは鋭い視線でミナミを睨みつける。
一瞬ひるみそうになるが、それでもミナミは視線をそらさない。
この8か月の間、イズミとのタッグで、イズミの力で掴んだ勝ちはあれど、自身が活躍できた実感はない。シングルでは未だに1勝もあげられていなかった。
(このままでは、イズミの顔に泥を塗ることに……)
ミナミの焦りはそこにあった。
「……覚悟はできてんのか?」
「……はい。何でもやります」
「わかったよ。じゃあ、おれを投げれるようになったら教えてやる」
「え?えええ!?」
耳を疑った。
イズミの体重はミナミの倍近くある。
今までの訓練でも、投げれた試しはない。
(ひょっとして、からかわれている?)
ミナミには、イズミの最高必殺技と投げ技は全く関係がないように思えた。
「なんだ?無理だと思うならさっさと諦めろ。一足飛びに必殺技を身に着けたいっていうんなら、それなりの覚悟が必要ってもんだ」
覚悟。
それを聞いて、ドキッとする。
(確かに……口だけではいくらでも言える。でも、それを見せないと覚悟は証明できない。できるできないじゃない。やるんだ!)
「わかりました。やってみます」
「おお。やってみろ。ボディスラムでも背負い投げでもスープレックスでも何でもいい。一回でも投げられたら教えてやる」
こうして、ミナミの投げ技特訓が始まった。
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