第66話 決算報告

 ミナミは正社員として3年目となる4月を迎えた。


 平日は朝練、会社員、夕錬を繰り返し、土日は試合会場に足を運んでは観客のアンケートを続けていた。


 そして、大きなイベントであるGW大会が過ぎたころ、漸くアイデアがまとまったので報告を申し出ると、取締役会で議論することになった。


(メンバーは変わらないはずなのに……大げさよね)


 そう思いながら取締役会に同席する。


「議題の一つ目は決算報告だ」


 税理士の北野が報告に来ていた。

 久しぶりに見ると、やはりなかなかかっこいい。


「売上4億9百万円。おめでとうございます、初の4億越え達成です。そして、営業利益は1千1百万円。純利益は約8百万円です」


 それを聞き、大沢は満足げに頷く。

 北野はちらっとミナミの方を見ると報告を続けた。


「DXとM&Aで売り上げは26%向上、利益は約2倍の伸びです。すごいですね」


 ミナミはなんだか赤面する。

 別に自分だけが褒められているわけではないのだが、数字で効果が見えるとやはりうれしい。


「ですが、キャッシュは2千万円減っています。現金残高は9百万円でした」

「薄氷を踏む感じだな」


 大沢が口をはさむ。


「ミナミがバンバン使い込んじゃったからな。合計1億円も使っちゃったもんな」

「大沢さん。誤解を生むようなこと言わないでください。投資です。使い込んだじゃないですよ」


 みんなの笑い声が会議室に広がる。

 ミナミはひとりでむくれていた。


「ま、GW大会も好調だったし、資金繰りは何とかなるだろう。これ以上大型投資したいとか、誰かさんが言い出さなければな」


 こうして、決算は無事承認された。


(大沢さん……もう。弄り過ぎです。ひどい……)


 ミナミの気持ちなど気にもせずに次の議題に移る。


「じゃあ、次の議題。ポイント制の提案だ。ミナミ、頼むぞ」

「はい」


 こちらは、安易に弄られるわけにはいかない。

 ミナミは印刷してきた冊子をみんなに配った。

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