第65話 ロジカルシンキング

 数か月ごとに集まるゼミ仲間。

 大体、ミナミが何か悩んで相談がてら声をかける。

 すると、ミナミを弄りつつ飲む目的で飲み会が設定される。


 今回もそんな感じで、のっけから弄られまくっていた。


「デビューして、まだ勝ち無し?」

「もう半年経ったんじゃないの?」

「この前話題になってた対抗戦も出なかったの?」

「そもそも、試合に出てるのか?」


 相談する前に質問攻めを受けるのもいつものパターンだ。


「仕方ないでしょ。初勝利まで半年以上かかるなんて普通よ、普通」


 ミナミが文句を言うと、みんな喜んでさらに茶々を入れる。


「おい、橋本。AIで一般的な期間を教えてくれよ」

「……そんなん、AI使わなくてもいいと思うけど……」


 橋本はちゃちゃっとスマホを叩きAIに質問すると、すぐに回答が返ってくる。


『デビューからわずか数試合で初勝利を挙げる選手もいれば、デビューから数年経っても初勝利を挙げられない選手もいます』


「おおー、さすが本職」

「てか、数年って、そんなにかけたらミナミ、アラサーになっちゃうよ?」

「うわー……年増のルーキーレスラーなんてドン引き……」


 全員同い年なのに、ひどい言い分だ。


「そんなにかからないもん。タッグでは一勝してるもん。そんなことより、少しは相談に乗ってよね」


 みんな笑いすぎたのか、そろそろかわいそうと思ったのか、やっとミナミの悩みを聞き始めた。


「なるほど。ランキング制、それは面白いアプローチね」

「どう考えていけばいいか?コンサルの稲田が適任だな」

「おれか?うーん。まあ、ロジカルシンキングでいいんじゃねえ?」

「……聞いたことあるわね。授業で習ったかも」


 確か、物事をどんどん細分化して考えていく方法だ。


「プロレスの魅力のポイント化によるランキングだろ?まずは、そもそも誰にとってどのような魅力が評価されるべきなのかを細分化していったらいいなじゃね?」


 稲田のレクチャーが始まった。


「例えば、専門家視点と観客視点に分ける。顧客視点は、かっこよさ、強さ、面白さ、意外さとさらに細分化、みたいにね。ロジカルツリーを作っていくんだ」

「おお、わかりやすい。なるほど……ありがとう」


 なんだか、初めて稲田がまともに見える。


(『そもそも』と言いながら話を混ぜ返すだけじゃないんだね……口には出せないけど)


 そして、その週の週末。

 珍しく興行に随行したミナミは、入場観客にアンケートを配ったり、インタビューを始めるのだった。

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