第十二章 ランキング改革 <入社3年目春>

第63話 ランキング

 大沢は改革に向けて、具体的な議論を始めた。


「現在のプロレスの問題点は、純粋な技と技のぶつかり合いの魅力をしっかりと評価できていないことだと思う。だから、それ以外の話題性を必要としているんだ」


 ベビーフェイス対ヒール、チーム内でのポジション争い、団体対団体……このような抗争構造を作り話題を作ってマッチメイクする。

 良くも悪くも、話題優先。これでは、技の魅力は二の次だ。


「評価ですか」

「そうだ」


 大沢は席を立つと、ミナミの横にドカッと座った。


(あ、あわ、あわわ……ち、近い)


 慌てたけど、離れるのは嫌だし、どうしたらいいかわからないまま硬直する。

 正月に借りたコートの匂いがほのかに伝わってくる。


 大沢は目の前にノートを広げた。


「これを見てくれ」


 ミナミは我に戻る。


(あ、これを一緒に見ようという意味ね)


 呼吸を整えなおす。


「えっと、ランキング制……ですか」

「うん。例えば、同じリング競技であるボクシングや総合格闘技でも採用されている」


 ボクシングは、基本的には階級別にランキングを決めて、ランキング上位者がチャンピオンに挑戦できるという仕組みがある。


「本当の魅力をポイントやランキングで表現できたら面白いと思わないか?」


 大沢は珍しく熱く語りだした。

 ミナミはそれを微笑ましく見る。

 こんな大沢を見るのは、まさに大学一年にZWWで会った時以来だ。


「いいと思います。問題は、具体的にどのようにプロレスの魅力を評価してランキングをつけるかですよね」

「その通り。プロレスは勝ち負けだけがポイントじゃない。ここが重要だ」


 ボクシングや異種格闘技であれば、勝ち負けが最大のポイントだ。

 観客もそれを見に来ている。

 極端に言えば、秒殺でノックダウンさせたら観客は大喜びだ。

 だから、極端に言えば、勝敗だけでランキングをつけても良いくらいだ。


 ところが、プロレスは違う。

 一方的に技を出すだけでは評価をされない。

 相手の技をいかにしっかり受けられるか、いかに返すか。

 そのときの巧妙な試合の運びも重要な要素だ。

 

 それを意識しないで自分勝手な試合の流れをしてしまうと、たとえ勝っても『しょっぱい試合』と言われてしまう。


「私もそう思います。リングに入る前のしぐさや、観客の盛り上げ方なんかも観客の評価に入るものなんだと思います」

「一度、具体的に考えてみてもらえるか?」

「はい、考えてみます」


 ミナミは嬉しそうに社長室を出ていった。








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