第60話 エディオンアリーナ大阪

 エディオンアリーナ大阪。

 元の名を大阪府立体育館。

 リングサイド席も合わせて5000席がほぼ満席。


 興行としては大成功だった。


 自分の試合は予定されていないが、珍しく関東以外の興行に同行することになったミナミ。

 大沢から、よく見ておくようにと言われたからだ。

 そのとき、大沢はすでに何かを感じていたのかもしれない。


 試合も残すところ、あと三試合。

 セミセミメイン、セミメインに出るイズミとアキラが会場に向かう。


 ミナミはイズミの後を追う前に、メインイベントを待つサクラに声をかけた。


「大丈夫ですか?」


 サクラは苦笑いした。


「ははは。正直、こえーよ。あいつは半端ねぇ。でもな、SJWの看板掲げて喧嘩を売ったんだ。恥ずかしいところは見せらんねえだろ」


 はははと乾笑いする。

 そして、ミナミをぐっとつかむと、顔を近づけて小声で言った。


「昨日の夜、あいつと飲んだんだ。お互いに、どんな結果に終わっても恨みっこなしだぞってな」


 そして、バンとミナミの背中を叩く。


「ほら、イズミさんのセコンドだろ?早く行けよ」

「はい、サクラさんも、頑張ってください」


 こうして、ミナミはイズミの試合のセコンドに向かった。


 イズミ、アキラの試合がそれぞれ終わり、サクラと渋谷のメインイベントが始まった。


 ミナミは、なんとなく気になり、リングサイドに残って観戦する。


 両者はほぼ互角の流れ、拮抗した試合を繰り広げていった。

 しかし、徐々にサクラの肩の脈動が大きくなる。


(オーバーペースだ。やはり、渋谷さんについていくために、かなり無理をしている)


 そして、ついに捕まる。

 渋谷の必殺技、ラリアット。そして、パワーボム。


 カウントは2。


 SJWの全員が声が枯れんばかりに応援するが、それを上回るOWP地元大阪の大きな歓声。


 もう一発。

 そこを、サクラが切り返して、渋谷を持ち上げた。


 ここしかない。

 垂直落下式ブレインバスター。


 しかし、ミナミは違和感を感じる。

 サクラの足が揺れている。


(やばい、角度が……)


 そのまま、斜めに肩から落ちる渋谷。

 渋谷は苦しい表情で動けない。


 サクラが渋谷をフォール。


 カウントが3つ入る。

 悲鳴と大歓声の中、サクラが右腕をあげ、控え室に引き上げる。


 渋谷はリング上で動かない。


「タンカ、タンカ運んで」


 OWP側のセコンドの絶叫が聞こえる中、ミナミは無我夢中でサクラを追いかけた。























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