第59話 営業戦略

「大沢さん、やっぱりこれっておかしいですよ」


 ミナミは社長室に入るといきなり苦言を呈した。


「OWPのことか?」

「はい。だって、イズミさんはまだしも、サクラさんが自分からあんな挑発するわけないですよ」


 ミナミは、サクラと渋沢がプライベートで仲が良いことを知っている。

 あんな挑発をするような仲じゃない。


(大沢さんも知っているはず……)


 しかし、大沢は難しい顔で答えた。


「わかっているが、これは営業部が決定した営業戦略だ」

「営業戦略?」

「ああ。OWPともすり合わせをした上で仕掛けている。メディアを通じてこんなに過熱しすぎるとは考えていなかったがな」

「それって……無理矢理、団体間の対立構造を作ったってことですか?」


 そんなことがあって良いのだろうか。

 団体の都合により、仲が良いはずのサクラと渋谷は、本心を隠して罵り合っている。


「残念ながら、その通りだ」


 大沢は無表情に答える。


「社長権限で見直しはできないんですか?」

「今となっては難しい。そもそも、おれも賛成したことだ。それに、エディオン大阪は最大5000人。もうすでにチケット販売も進んでいるし、2社共同興行だ。途中では止められない」


 確かにその通りだ。

 それに、ファンたちの期待もすでに直接対決一色だ。

 今更手遅れなのはわかる。


 でも、納得いかない。

 もっと前に、止められなかったのだろうか。


「ミナミ、言いたいことはわかる」


 ミナミは、大沢の表情を見て、言葉を失った。


「こんな姑息な対抗意識を煽ってでも、今は営業売上アップを追求しなければいけない。理想を語るためにも、それだけの財務基盤を充実させる必要があるんだ。おれたちはまだまだ、理想には近づけていない」


 覚悟とも無念ともいえる複雑な表情で応える大沢だった。

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