第53話 経営ビジョン
「イズミさんが朝練に来てくれて、みんなに指導をしてくれました」
ミナミは社長室で、嬉しそうに報告した。
「それは良かった。順調にPMIを進めてくれているということだな」
「はい」
PMI要素の中でも、一番重要なのは選手の扱いだった。
選手が離脱してしまったら買収したQoRは単なる抜け殻になる。
それを取り仕切るイズミの協力は不可欠。
そのイズミとかわした約束は
・イズミはQoR代表取締役社長を継続。SJWから社外取締役を派遣
・試合参戦は、SJW興行を最優先。余力があるときは他団体参戦も可
・練習体制はSJW本社の練習場を使う。最大2時間独占予約可
・バスはもう一台準備。ベビーフェイス組とヒール組を分ける
そして、ミナミがイズミとタッグを組むこと……
「……タッグの件はわかった。必ずいい経験になるから、前向きにやってみろ」
「はい。ありがとうございます」
そして、ミナミはもう一つ付け加えた。
「あと、一番大事な経営ビジョンについてですが、その、私に任せると……」
大沢は、意外にもそれほど驚かずに返す。
「そうか。それで、どんなビジョンにするんだ?」
ミナミは大沢をじっと見つめた。
『いずれ純粋な技と技の凌ぎ合いによって人を感動させる団体を作るから、大学卒業したら入団しにおいで』
(……大沢さんがそう言ってくれたから、私は今ここにいる。その信念を信じて……)
「『SJWとの共創で、純粋な技と技の凌ぎ合いが評価されるプロレスを実現する』と提案しました。大沢さんがSJWを立ち上げた理念に通じるように考えました」
ミナミが透明な瞳でそう答える。
まさにまだ穢れを知らない少女の瞳。
大沢は一瞬言葉を失った。
「……そうか。わかった。ありがとう、よくやってくれた。これで、QoRとの統合も順調に進み出すだろう。ご苦労だった」
「はい、ありがとうございます」
PMIを何とかやり切り、安堵の笑みを浮かべるミナミ。
充実感を胸に社長室から出ていった。
その後、大沢は電話をかける。
「今回は色々ありがとうございました」
「あんたの言う通りにしただけさ。タッグの件はおれも楽しみではあるけどね。しばらく、おれ流に鍛えればいいんだろ?」
「はい、頼みます。必ず、彼女のためになる」
「素質は認めるさ。大沢さんが入れ込んでいるのもよくわかる。多分、プロレスラーとしてだけでなく、だろ?」
「……どうでしょうね」
大沢は、ニヤリと微笑んだ。
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