第51話 タッグ

「おいおい、今更かよ」


 イズミはあきれたように吐き捨てる。


「はい、すみません。そこまで頭が回っていませんでした」

「ワカバのこと、プロテスト、あったかもしれん。でも、おれたち10人の選手の人生の問題なんだぜ。忙しかったとか言い訳にならねえよな」


 今でさえテレビでバラエティーにも出て馴染みやすいキャラになっているが、もともと凶悪ヒールの最高峰。圧倒的な凄みを潜めている。


 ミナミは畏れ多く震えた。


「すみません。言い訳のしようがありません」

「……」


 直球で謝る。それ以外の策は捨ててきた。

 潔いといえば潔いが、完全に無策だ。


 顔から脂汗がどんどん噴き出るが、それを拭うこともできずに固まっている。


 それをみて、イズミはフンと鼻で笑った。


「仕方がねえから、相談には乗ってやるよ。他の9人もおれが説得してやる」


 ミナミは恐る恐る顔を上げる。


「……本当ですか?」

「おれも社長だからな。役割は果たす。ただし……」

「……ただし?」

「条件がある」


 それはそうだろう。

 ミナミはどんな条件でも甘んじる覚悟だ。


「はい。言ってください」

「SJWへの初参戦。クリスマス大会の前週。ミナミがおれとタッグを組め」

「……え?」


 ミナミは耳を疑った。

 サザンとしてデビュー戦を1戦しただけのド新人だ。

 往年のスターヒールとタッグを組むなんてありえる話ではない。


「ご、ご冗談を……」


 バン。机をたたく大きな音。

 シェアオフィスの会議室の扉はシースルーだ。

 他社の視線を感じる。


「てめぇ!おれがふざけて言ってるとでも思ってんのか?」

「ひっ、い、いえ。滅相もないです」

「じゃあ、タッグ、組むのか?組まねえのか?」

「……帰って、社長や営業部長と相談して……」


 ババン。


「お前はPMI責任者としてSJW代表者としてここに来たんだろ。だったら、お前が責任をもって決めろ。今、ここでだ!」


 イズミはまさに鬼の形相。


「……わかりました」


 ミナミは震えながら、それでも決意を固めた瞳で答えた。


「私が決めます。イズミさんとタッグを組ませてください。お願いします」


 イズミは打って変わって明るく笑った。


「いい覚悟じゃねえか。よろしく頼むぜ。じゃあ、PMI決めようか」

「あ、その前に……」


 ミナミが不安げに質問する。


「なぜ、私なんですか?」

「ああ。面白いからだ。異次元覆面ヒール爆誕。それがおれと組む。話題になるだろ?テレビでもネタにしやすいからな」


 そして、豪快に笑うイズミだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る