第十章 PMI(ポスト・マージャ―・インテグレーション) <入社2年目秋~冬>

第48話 PMI(ポスト・マージャ―・インテグレーション)

「そろそろ、本格的にQoRのPMIを進めてほしい」


 突然、大沢がそんなことを言い出した。


「……PMI……ですか」


 学生の頃に習った気がする。

 PMI……たしか、ポスト・マージャ―・インテグレーション。

 M&A後の本格的な事業統合のことだ。


「まだQoRの選手をSJWの練習や興行にも呼べていないだろ。このままじゃM&Aの効果を発揮できない」

「たしかに」


 QoRの選手は今まで通り他団体へのスポット参戦やテレビ出演を続けている。

 イズミも、記者会見の時にアキラ対サクラ戦に乱入して以来、まだSJW興行には参戦していない。


「SJW最大の興行であるクリスマス大会は、今年は両国を抑えた」

「え……ええ!?両国ですか?」


 両国国技館といえば相撲の聖地ではあるが、プロレス興行の開催も頻繁に行われている。

 その最大収容人数は1万人を超える。


 これまでのSJWにとっての大きな会場といえば、後楽園ホールや八王子。

 1000人超の規模だ。両国はその10倍。


 ミナミは想像を絶する規模にパニックになっていた。


 逆に、大沢のサングラスの中の瞳は、少年のような輝きを浮かべていた。


「SJWとQoRの統合後、初の大型大会だ。両国くらいの大舞台を用意すべきだと考えている。その価値をしっかりと作り出す必要がある」


 ミナミは大沢の言葉を思い出す。


「『興行回数は増やさない。質を上げて、観客数と単価を上げる』……これが大沢さんのポリシーでしたものね」

「そうだ。まだまだ理想には遠いけど、今回のQoR統合で質を上げていきたい。でも、肝心のQoRとSJWの融合がまったく進んでいないのが問題だ」


 ミナミの胸がずきんと痛む。

 自分のことばかり考えて、M&Aを完了することだけに捉われていた。

 確かに、授業でもM&AではPMIが一番大事だって習ったはず。


「わかりました。遅くなりましたが、イズミさんたちと話し合って、しっかりとPMIを進めます」

「よろしく頼む。クリスマス前週の興行でプレ参戦。クリスマスの週には両国大会で本格融合。すごいな。楽しくなるだろう」

「はい」


 こんなにうれしそうな大沢を見るのは初めてで、なんとか力になりたいと心底思うミナミだった。

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