第49話 デビュー祝い

 ミナミが居酒屋に入ると、先に来ていた4人から祝福の声が上がった。


「サザンがきた」

「デビューおめでとう、サザン」

「てか、そもそもサザンってなんだよ。まさかミナミの直訳じゃないだろうな」

「入場テーマもサザンの曲か?」


 ゼミ仲間4人からデビュー祝いをしてくれると言われ、嫌な予感しかしなかったミナミ。

 そして、案の定、早速弄られる。


(どこが、お祝いなのよ……)


 予想通りの状況に、完全に諦め状態のミナミ。


「……はいはい、もう何とでも言ってちょうだい。でも、他のお客さんにばれない様に大声で言わないでよね」


 そして、投資銀行でM&A業務を本職としているタマちゃんに向かって、最近の状況を説明する。


「……ということで、PMIのアドバイスが欲しいの。お願い」

「ミナミねぇ、私は本職なんだって。アドバイス料1億円」

「そこを何とか。ほら、サイン書くから。私、一応本物の選手だし。それでお願い」

「まったく……1億円の価値になるように活躍してよ?」

「うれしい、ありがとう。やっぱり持つべき友はタマちゃんね」


 こうして、ミナミが約束を取り付けると、満を持してミナミの試合動画をみんなで見ようという流れになった。

 タマちゃんがいつものように、酒の肴にとスマホをみんなに見えるようにテーブルに置く。


 ミナミは耳をふさぎ目を閉じるが、四人とも大喜びで動画に見入っている。


「リングサイドでも見てたけど、やっぱり試合前ガッチコッチよね」

「試合後の挨拶、礼儀正しすぎるし。これじゃヒールのなりそこないじゃん」

「そもそも、なんで対戦相手と仲良くインタビュー受けてんの?」

「うわ、ヒールでデビュー戦なのに、対戦相手とタッグで世界って言っちゃったの?」

「わかったから、みんな、もう言わないで。忘れたいんだから」


 ミナミはビールを一気飲み。


「ま、それでも試合内容は良かったんじゃないか?はつらつと動き回って、臆せずに技も出せていて」

「……橋本君……」


 ここでフォローを出してくれるなんて。いつものデリカシーのかけらもない橋本とは思えないフォローに感謝するミナミだった。


「でもなんでジャージなんだ?やっぱり太った体系を隠すため?」

「ちょっと、太ってないから」


 それを聞いてみんなはまた大笑い。


(もう、橋本君……前言撤回。めちゃくちゃ練習してるからかなり絞れてるんですけど。やっぱ、デリカシーのかけらもないわ。バックドロップで不忍池に沈んでもらおうかしら……)

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